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所得と収入の違いとは?人事・労務担当者が押さえるべき定義・計算方法・実務の使い分けを徹底解説

所得_収入_違い

「所得」と「収入」——似ているようで意味がまったく異なるこの2つの用語は、年末調整や給与計算、社会保険の手続きなど、人事・労務の実務で頻繁に登場します。

  • 「源泉徴収票の『支払金額』と『給与所得控除後の金額』はどちらが収入?」
  • 「従業員から扶養控除申告書の書き方を聞かれたけれど、年収と所得のどちらを記入すればいい?」

こうした場面で正確に答えられなければ、税額の計算ミスや届出書類の不備につながりかねません。

年収500万円の会社員を例に、収入・所得・手取りの関係を具体的な数字で整理してみましょう(令和7年分、扶養なし・独身の場合の概算)。

項目金額説明
収入(年収)500万円源泉徴収票の「支払金額」
給与所得控除▲144万円年収に応じた「みなし必要経費」
給与所得356万円源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」
所得控除の合計▲約130万円基礎控除68万円+社会保険料控除約62万円 等
課税所得約226万円所得税の計算基礎
所得税+復興特別所得税▲約13万円課税所得×税率−控除額
住民税▲約24万円課税所得(住民税基準)×10%+均等割
社会保険料▲約75万円健康保険+厚生年金+雇用保険
手取り約388万円実際に受け取る金額

このように、年収500万円の場合、所得は356万円、手取りは約388万円となります。「年収」「所得」「手取り」がそれぞれまったく異なる金額であることが一目で分かるはずで

本記事では、収入と所得の基本的な定義の違いから、所得税法が定める10種類の所得の全体像、給与所得控除の最新テーブル(令和7年度税制改正対応)、さらに社会保険料・住民税の算定基礎としての「所得」の役割まで、人事・労務の現場で必要な知識を体系的に解説します。

従業員対応に使えるQ&A集や、業務フロー別の使い分けガイドも収録していますので、実務のハンドブックとしてご活用ください。

この記事でわかること
  • 「収入」は会社から支払われる総額、「所得」は収入から必要経費(給与所得控除など)を差し引いた金額
  • 所得は所得税・住民税・社会保険料・行政サービス(保育料・高額療養費など)の算定基礎になる重要な数値
  • 令和7年度税制改正で給与所得控除の最低保障額が55万→65万円に引き上げられ、非課税ラインが変動している
目次

収入と所得の違いをわかりやすく解説——基本の定義を押さえよう

収入と所得は日常会話では混同されがちですが、税法上はまったく異なる概念です。年末調整の書類や住宅ローンの審査書類など、「収入」と「所得」のどちらを記入すべきか迷う場面は少なくありません。

ここでは、それぞれの定義と関係性を、給与所得者・個人事業主・年金受給者のケース別に整理します。

「収入」とは——税引き前に受け取るお金の総額

収入とは、勤務先から支払われる給与や賞与など、税金や社会保険料が差し引かれる前の金額の総額を指します。会社員であれば、毎月の給与明細に記載されている「総支給額」の1年分の合計が「収入」にあたります。

具体的に収入に含まれるものは、基本給、残業手当、通勤手当のうち非課税限度額を超える部分、役職手当、賞与(ボーナス)などです。源泉徴収票では「支払金額」の欄に記載される数字が、その年の収入(年収)に該当します。

なお、通勤手当のうち月15万円以下の部分は非課税とされており、収入には含まれません(国税庁「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当」)。

この点は給与計算実務でも混同が起きやすいポイントです。

「所得」とは——収入から必要経費を差し引いた金額

所得とは、収入から「必要経費」に相当する金額を差し引いた後に残る金額です。一言でいえば、「稼ぎのうち、実質的な利益に該当する部分」が所得です。

会社員の場合、実際に経費の領収書を集めて申告するわけではありません。代わりに、収入金額に応じて自動的に差し引かれる給与所得控除が、会社員にとっての「みなし必要経費」の役割を果たします。つまり、会社員の所得は次の計算式で求められます。

給与所得 = 給与収入(年収)− 給与所得控除額

たとえば年収500万円の会社員の場合、令和7年分の給与所得控除額は144万円ですので、給与所得は356万円となります。源泉徴収票では「給与所得控除後の給与等の金額」の欄に記載される数字が、給与所得に該当します。

「手取り」との違い——所得からさらに税金・社会保険料を引いた額

「手取り」は、税法上の正式な用語ではありませんが、日常的に最もよく使われる金額です。手取りとは、所得からさらに所得税、住民税、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料など)を差し引いた後に、実際に銀行口座に振り込まれる金額を指します。

整理すると、収入から手取りに至るまでの流れは次のようになります。

収入(年収)→ 所得(収入 − 必要経費)→ 手取り(所得 − 税金 − 社会保険料)

ただし、厳密に言えば手取りの計算過程はもう少し複雑です。所得からまず各種の「所得控除」(基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除など)を差し引いて「課税所得」を算出し、そこに税率を掛けて所得税額を確定させます。

この所得税と住民税、社会保険料を収入から差し引いた金額が手取りです。

会社員・個人事業主・年金受給者で異なる「必要経費」の考え方

収入から所得を算出する際に差し引く「必要経費」は、働き方によって計算方法が大きく異なります。

会社員(給与所得者)の場合は、先述のとおり「給与所得控除」が適用されます。収入金額に応じて自動的に控除額が決まるため、領収書の保管や経費の申告は不要です。

個人事業主(フリーランス)の場合は、実際に事業のために支出した費用を「必要経費」として収入から差し引きます。事務所の家賃、パソコンの購入費、通信費、交通費など、事業に関連する支出が対象です。確定申告で収支を申告し、「事業収入 − 必要経費 = 事業所得」として計算します。

年金受給者の場合は、「公的年金等控除」が適用されます。65歳以上であれば最低110万円、65歳未満であれば最低60万円が控除される仕組みです(国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」)。

働き方収入の名称差し引く経費所得の名称
会社員給与収入給与所得控除(自動計算)給与所得
個人事業主事業収入実額の必要経費事業所得
年金受給者年金収入公的年金等控除雑所得

人事・労務の実務では、従業員の配偶者や扶養家族が個人事業主や年金受給者であるケースも少なくありません。扶養控除等申告書を確認する際に、収入の種類によって所得の計算方法が異なることを理解しておくと、書類の不備を防げます。

所得税法が定める10種類の所得——全体像と人事実務との接点

所得税法では、所得をその発生源泉に応じて10種類に分類しています。

人事・労務担当者が日常的に扱うのは主に「給与所得」ですが、従業員が副業をしていたり、退職金を支払ったりする場面では、ほかの所得区分の知識も必要になります。

ここでは10種類すべてを概観したうえで、人事実務との接点が特に大きい所得を重点的に解説します。

①給与所得——会社員・パート・アルバイトの給与・賞与が対象

給与所得とは、勤務先から受け取る給料、賃金、賞与、歳費などの所得を指します(国税庁「No.1400 給与所得」)。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトの給与も給与所得に該当します。

人事担当者にとって最も身近な所得区分であり、毎月の源泉徴収や年末調整の対象となる所得です。給与所得の金額は「給与収入 − 給与所得控除額」で算出され、この計算は給与計算ソフトが自動的に行います

注意すべきは、現物給与(社宅の貸与、食事の支給など)も原則として給与所得に含まれる点です。たとえば、会社が従業員に月額5,000円で社宅を貸与しており、その社宅の通常の賃貸料が50,000円相当であれば、差額の一部が給与所得として課税対象になる場合があります。

②事業所得——副業・フリーランス従業員の確定申告に関わる所得

事業所得とは、農業、漁業、製造業、小売業、サービス業、その他の事業から生ずる所得を指します(国税庁「No.1350 事業所得の課税のしくみ」)。

近年は副業を認める企業が増えていることから、従業員が給与所得のほかに事業所得を得ているケースが珍しくなくなりました。人事担当者として押さえておくべきポイントは2つあります。

第一に、従業員が副業で事業所得を得ている場合でも、本業の年末調整は通常どおり行います。副業の事業所得については従業員本人が確定申告で精算するため、人事部門が副業の所得を把握して年末調整に反映させる必要はありません。

第二に、確定申告の際に住民税の徴収方法を「普通徴収(自分で納付)」にすれば、副業分の住民税が会社の給与から天引きされることを回避できます。ただし、すべての自治体がこの対応に応じるわけではない点に留意が必要です。

③退職所得——退職金の税額計算と源泉徴収の実務ポイント

退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当や、一時恩給、その他の退職により一時に受ける給与などの所得を指します(国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。

退職所得は、長年の勤労に対する功労報償としての性格を持つため、ほかの所得よりも税制上の優遇が手厚く設けられています。計算方法は次のとおりです。

退職所得 =(退職金の額 − 退職所得控除額)× 1/2

退職所得控除額は、勤続年数に応じて以下のように計算します。

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

たとえば、勤続30年の従業員に退職金2,000万円を支払う場合、退職所得控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円となり、退職所得は(2,000万円−1,500万円)×1/2=250万円です。

人事部門の実務として重要なのは、退職する従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を退職日までに提出してもらうことです。この申告書が提出されないと、退職金の全額に対して一律20.42%の所得税が源泉徴収されてしまい、従業員に大きな不利益が生じます。

④不動産所得・⑤利子所得・⑥配当所得——資産運用に関わる3つの所得

  • 不動産所得は、土地や建物の貸付けにより生ずる所得です。従業員が賃貸マンションを所有している場合に発生します。家賃収入から必要経費(管理費、修繕費、減価償却費、固定資産税など)を差し引いて計算します。
  • 利子所得は、預貯金や公社債の利子などの所得です。銀行預金の利子は源泉分離課税(所得税15.315%+住民税5%)として自動的に課税されるため、通常は確定申告の必要がありません。
  • 配当所得は、株式の配当金や投資信託の収益分配金などの所得です。上場株式の配当については、確定申告不要制度(源泉徴収のみで完結)を選択することもできます。

これら3つの所得は、人事実務に直接影響する場面は少ないものの、配偶者控除や扶養控除の判定において「合計所得金額」を確認する際に関係してくることがあります。たとえば、扶養に入っている配偶者に不動産所得がある場合、その金額次第では扶養の所得要件(合計所得金額58万円以下)を超えてしまう可能性があります。

⑦譲渡所得・⑧山林所得・⑨一時所得・⑩雑所得——その他の所得と人事への影響

  • 譲渡所得は、資産の譲渡(売却)により生ずる所得です。不動産や株式の売却益が代表例です。土地・建物の譲渡所得は、ほかの所得と合算しない「分離課税」の対象であり、所有期間が5年超か5年以下かで税率が異なります。
  • 山林所得は、山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡したりして生ずる所得です。一般的なオフィスワーカーが該当するケースはまれです。
  • 一時所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時的な所得で、労務その他の役務の対価としての性質がないものを指します。生命保険の満期金や懸賞金の当選金などが該当します。50万円の特別控除があり、さらにその1/2しか課税対象にならないため、税負担は比較的軽い所得です。
  • 雑所得は、ほかの9種類のいずれにも該当しない所得で、公的年金等の所得や、副業としての原稿料・講演料などが含まれます。副業の規模が小さく「事業」と呼べない程度の場合、事業所得ではなく雑所得として申告するのが一般的です。

人事実務との関連でいえば、従業員が副業収入について「事業所得」と「雑所得」のどちらで申告すべきか質問されることがあります。

人事担当者は税務判断を下す立場にはありませんが、「反復・継続的な活動で、営利目的があり、社会通念上の事業といえる規模かどうか」が判断基準であること、最終的には税務署や税理士に相談するよう案内するのが適切です。

総合課税と分離課税の違い——確定申告が必要になるケース

所得税の課税方法には、総合課税分離課税の2つがあります。

総合課税は、給与所得・事業所得・不動産所得・一時所得・雑所得などを合算し、その合計額に対して累進税率(5%〜45%)を適用する方式です。所得が高いほど税率が上がるため、高所得者ほど税負担が重くなる仕組みです。

分離課税は、特定の所得をほかの所得と合算せずに、それぞれ個別の税率で課税する方式です。退職所得、譲渡所得(土地・建物・株式)、利子所得、山林所得などが分離課税の対象となります。退職所得が分離課税とされている理由は、長年にわたる勤務の対価を一時に受け取ったときに、累進税率を適用すると過重な税負担になってしまうことを避けるためです。

年末調整は給与所得のみを対象とした手続きであるため、従業員にほかの所得がある場合は確定申告が必要になります。以下に該当する従業員には、人事部門から確定申告が必要である旨を案内すると親切です。

  • 給与収入が2,000万円を超える場合
  • 副業の所得(給与所得・退職所得を除く)が年間20万円を超える場合
  • 2か所以上から給与を受けている場合
  • 医療費控除や住宅ローン控除(初年度)を受けたい場合

給与所得控除とは?最新の控除額テーブルと計算方法【令和7年改正対応】

給与所得控除は、会社員の所得を計算するうえで欠かせない仕組みです。個人事業主が確定申告で実際の経費を差し引くのと同様に、会社員にも「みなし必要経費」として一定額を収入から差し引くことが認められています。令和7年度税制改正で最低保障額が引き上げられたため、最新の控除額テーブルと計算例を確認しましょう。

給与所得控除の仕組み——なぜ会社員にも「経費」が認められるのか

会社員は個人事業主のように確定申告で経費を申告する機会がありませんが、実際にはスーツ代、靴代、通勤にかかる身だしなみの費用、自己研鑽のための書籍代など、仕事に関連した出費を負担しています。給与所得控除は、こうした「目に見えにくい経費」を概算的に認める制度です。

給与所得控除の金額は年収に応じて段階的に増加し、年収850万円超で上限の195万円に達します。収入金額が高いほど控除額も大きくなりますが、控除率は逓減していく設計になっています(国税庁「No.1410 給与所得控除」)。

【令和7年分】給与所得控除額の速算表(最低保障額65万円)

令和7年度税制改正により、給与所得控除の最低保障額がそれまでの55万円から65万円に引き上げられました。あわせて、最低保障額が適用される年収の上限も162万5,000円以下から190万円以下に拡大されています(国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」)。

令和7年分以降の給与所得控除額は、以下の速算表で求めることができます。

給与等の収入金額給与所得控除額
190万円以下65万円(最低保障額)
190万円超〜360万円以下収入金額 × 30% + 8万円
360万円超〜660万円以下収入金額 × 20% + 44万円
660万円超〜850万円以下収入金額 × 10% + 110万円
850万円超195万円(上限)

改正前(令和6年分まで)の速算表と比較すると、変更があったのは収入金額190万円以下の区間のみです。190万円を超える区間の控除額計算式には変更がないため、年収200万円以上の従業員については改正の影響はありません。

年収300万・500万・700万円の給与所得シミュレーション

給与所得控除の速算表を使って、代表的な年収帯の給与所得を計算してみましょう。

【年収300万円の場合】
給与所得控除額 = 300万円 × 30% + 8万円 = 98万円
給与所得 = 300万円 − 98万円 = 202万円

【年収500万円の場合】
給与所得控除額 = 500万円 × 20% + 44万円 = 144万円
給与所得 = 500万円 − 144万円 = 356万円

【年収700万円の場合】
給与所得控除額 = 700万円 × 10% + 110万円 = 180万円
給与所得 = 700万円 − 180万円 = 520万円

年収が上がるほど控除額も増えますが、収入に占める控除の割合は下がっていきます。年収300万円では控除率が約32.7%ですが、年収700万円では約25.7%にまで低下します。これは、高所得者ほど所得税の実効税率が高まる累進課税の仕組みを補完するものです。

なお、上記はあくまで給与所得控除のみの計算であり、実際にはここからさらに所得控除(基礎控除、扶養控除、社会保険料控除など)を差し引いて課税所得を求め、税額を算出します。

特定支出控除——実費が給与所得控除を超えた場合の救済制度

会社員であっても、業務に必要な出費が給与所得控除額の半額を超える場合には、確定申告により超過分をさらに差し引くことができる「特定支出控除」という制度があります(国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」)。

特定支出として認められる費目は、通勤費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等、上限65万円)の6種類です。

たとえば、年収500万円の従業員の場合、給与所得控除額は144万円ですので、その半額の72万円を超える特定支出があれば、超えた分を追加で控除できます。ただし、特定支出として認められるには勤務先の証明書が必要であり、実際に利用されるケースはそれほど多くありません。

人事部門として知っておくべきは、従業員から「特定支出控除の証明書を発行してほしい」と依頼された場合の対応手順です。

所得金額調整控除——年収850万円超の従業員が対象になるケース

給与所得控除額の上限は年収850万円超で195万円に固定されますが、以下のいずれかに該当する場合は、所得金額調整控除として最大15万円の追加控除を受けることができます(国税庁「No.1411 所得金額調整控除」)。

  • 本人が特別障害者に該当する場合
  • 23歳未満の扶養親族を有する場合
  • 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族を有する場合

所得金額調整控除額は次の計算式で求めます。

所得金額調整控除額 =(給与収入(上限1,000万円)− 850万円)× 10%

年収1,000万円の場合は(1,000万円−850万円)×10%=15万円が上限となります。この控除は年末調整で適用できますので、該当する従業員には「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の所得金額調整控除欄への記入を案内しましょう。

所得控除と給与所得控除の違い——混同しやすい2つの「控除」を整理

「給与所得控除」と「所得控除」は、名前が似ているため実務でも混同されやすいポイントです。しかし、この2つは所得税の計算過程においてまったく異なる役割を持っています。ここでは、それぞれの位置づけを明確にし、所得税額が決まるまでの全体フローを整理します。

給与所得控除は「収入→所得」の計算で使う控除

給与所得控除は、前章で解説したとおり、収入金額から差し引いて「給与所得」を算出するための控除です。すべての給与所得者に一律で適用され、年収に応じて自動的に金額が決まります。個人事業主でいう「必要経費」に対応するものであり、納税者が自ら金額を選択する余地はありません。

ポイントは、給与所得控除が「所得の計算段階」で使われるという点です。収入を所得に変換するプロセスの中で機能する控除であり、これによって「所得」の金額が確定します。

所得控除は「所得→課税所得」の計算で使う控除(基礎控除・配偶者控除・扶養控除など)

所得控除は、給与所得が確定した後に、個人の事情に応じて差し引くことができる控除です。全部で15種類あり、基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、小規模企業共済等掛金控除などが代表的なものです。

所得控除の目的は、「同じ年収でも、養う家族の人数や医療費の負担額などによって実質的な担税力が異なる」という個人差を税額に反映させることにあります。たとえば、年収500万円で扶養家族が3人いる従業員と、年収500万円で扶養家族がいない従業員では、前者のほうが生活費の負担が大きいため、所得控除によって課税所得が低くなり、結果的に税額も少なくなります。

所得控除は「所得から課税所得を算出する段階」で使われます。給与所得控除とは適用されるタイミングが異なる点をしっかり区別してください。

所得税額が決まるまでの全体フロー——収入→所得→課税所得→税額

所得税の計算は、大きく4つのステップで進みます。この流れを理解しておくと、「給与所得控除」と「所得控除」がどのタイミングで適用されるのかが明確になります。

  1. ステップ1:収入金額の確定
    • 1月1日から12月31日までに支払われた給与・賞与の総額(源泉徴収票の「支払金額」)を確定します。
  2. ステップ2:給与所得の算出(給与所得控除の適用)
    • 収入金額から給与所得控除額を差し引き、給与所得を算出します。
    • 給与所得 = 給与収入 − 給与所得控除額
  3. ステップ3:課税所得の算出(所得控除の適用)
    • 給与所得から所得控除の合計額を差し引き、課税所得金額を算出します。
    • 課税所得 = 給与所得 − 所得控除の合計額(1,000円未満切捨て)
  4. ステップ4:所得税額の算出(税率の適用)
    • 課税所得金額に超過累進税率(5%〜45%)を掛けて算出所得税額を求め、さらに税額控除(住宅ローン控除など)があればそれを差し引いて最終的な所得税額を確定させます。

所得税額 = 課税所得 × 税率 − 控除額 − 税額控除

このように、給与所得控除はステップ2で、所得控除はステップ3で、それぞれ異なる段階で適用されます。年末調整は、この一連の計算を勤務先が代行して行い、毎月の源泉徴収税額との差額を精算する手続きです。

源泉徴収票で確認する——各控除が反映される欄はどこか

源泉徴収票は、上記の計算結果を1枚の用紙にまとめたものです。各欄がどの計算ステップに対応しているかを理解すると、源泉徴収票の読み方が格段に分かりやすくなります。

源泉徴収票の欄対応する内容計算ステップ
支払金額年間の給与収入の総額ステップ1
給与所得控除後の給与等の金額給与所得(=支払金額−給与所得控除)ステップ2
所得控除の額の合計額所得控除の合計ステップ3
源泉徴収税額年間の所得税額(復興特別所得税を含む)ステップ4

人事・労務担当者が従業員から「源泉徴収票の見方がわからない」と質問されたときは、この4つの欄を順番に説明すると、収入から所得税が確定するまでの流れを直感的に理解してもらえます。

所得は税金だけじゃない——社会保険料・住民税・行政サービスの算定基礎

所得が影響するのは所得税だけではありません。住民税、国民健康保険料、介護保険料、さらには保育料や高額療養費の自己負担限度額まで、「所得」の金額を基準に決まる制度は数多くあります。

ここでは、人事・労務担当者が知っておくべき「所得が基準になる主な制度」を体系的に整理します。

住民税の算定——所得税とは異なる基礎控除額(43万円据置)に注意

住民税(個人住民税)は、前年の所得に基づいて翌年度の税額が決まる「前年所得課税」の仕組みです。計算方法は所得税と類似しており、「所得 − 所得控除 = 課税所得」に税率を掛けて算出しますが、いくつかの重要な違いがあります。

最大の違いは、基礎控除額です。所得税の基礎控除が令和7年分から最大95万円(合計所得132万円以下の場合)に引き上げられた一方で、住民税の基礎控除は43万円のまま据え置きとなっています(総務省「個人住民税」)。

この結果、所得税と住民税で非課税ラインにズレが生じます。たとえば、給与収入のみの場合を考えると以下のとおりです。

項目所得税住民税(所得割)
給与所得控除65万円65万円
基礎控除95万円(R7・R8年分)43万円
非課税ライン年収160万円年収約100万円(自治体による)

つまり、年収160万円以下なら所得税はゼロになりますが、住民税は年収約100万円を超えると課税される場合があるということです。パートタイム従業員への案内の際に、「103万円の壁が160万円になった」と伝えるだけでは不正確であり、住民税の壁は依然として低い水準にある点をあわせて説明する必要があります。

また、住民税の所得控除額は所得税よりも全般的に低く設定されています。配偶者控除は所得税で38万円ですが住民税では33万円、扶養控除(一般)は所得税で38万円ですが住民税では33万円です。このため、所得税がゼロでも住民税がかかるケースは珍しくありません。

社会保険料の基準は「標準報酬月額」——所得とは別の算定ロジック

健康保険料と厚生年金保険料は、「所得」ではなく「標準報酬月額」を基準に算出されます。標準報酬月額とは、毎月の給与(基本給+各種手当)を一定の等級に区分したものです。

標準報酬月額は、原則として毎年4月・5月・6月の3か月間に支払われた報酬の平均額(算定基礎届の届出による定時決定)に基づいて決定され、その年の9月から翌年8月まで適用されます。昇給や降給などで報酬に大きな変動があった場合は、随時改定(月額変更届)の手続きが必要です。

ここで重要なのは、標準報酬月額の基礎となる「報酬」には、通勤手当(全額)も含まれるという点です。所得税の計算では月15万円以下の通勤手当は非課税ですが、社会保険料の計算では通勤手当も報酬に含まれます。

このため、通勤手当が高額な従業員は、税法上の収入よりも社会保険の報酬のほうが高くなることがあります。

項目所得税の「収入」社会保険の「報酬」
基本給・手当含む含む
通勤手当(月15万円以下)含まない(非課税)含む
賞与年間の収入に含む標準賞与額として別途計算
現物給与(社宅等)一定の基準で含む一定の基準で含む

国民健康保険料・後期高齢者医療保険料——「旧ただし書き所得」とは

従業員が退職して国民健康保険(国保)に加入する場合や、従業員の家族が国保に加入している場合は、「所得」が保険料に直結します。

国民健康保険料の算定基礎として多くの自治体が採用しているのが「旧ただし書き所得」と呼ばれる計算方式です。これは、「総所得金額等 − 基礎控除額43万円」で算出される金額で、この金額に保険料率を掛けて保険料が決まります。

ポイントは、国保の算定では「基礎控除」のみを差し引くという点です。配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除など、所得税の計算で使われるほかの所得控除は一切考慮されません。したがって、所得税の課税所得がゼロでも、国保の保険料が発生するケースは日常的に起こります。

退職する従業員に国保への加入を案内する際は、「国保の保険料は所得に基づいて計算されるため、退職直後は在職時の前年所得が基準になり、保険料が高額になる可能性がある」旨をあわせて説明すると親切です。

保育料・高額療養費・児童手当——所得区分で変わる行政サービス

所得は、税金や社会保険料だけでなく、さまざまな行政サービスの利用料や給付額を決める基準にもなっています。人事担当者として知っておくと、従業員からの相談に適切に対応できる主な制度を紹介します。

保育料は、保護者の「市区町村民税の所得割額」に基づいて決定されます(内閣府「子ども・子育て支援新制度について」)。3〜5歳児クラスは2019年10月から無償化されていますが、0〜2歳児クラスは住民税非課税世帯のみが対象です。住民税の所得割額が高いほど保育料が上がるため、所得を正しく申告することが重要です。

高額療養費制度は、1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。自己負担限度額は「所得区分」に応じて5段階に設定されており、所得が高いほど限度額も高くなります(厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)。

児童手当は、令和6年10月の制度改正により所得制限が撤廃され、すべての子育て世帯に支給されることになりました。ただし、高校生年代(18歳到達後最初の年度末まで)まで対象が拡大された点など、人事担当者として従業員に案内する際に押さえておくべき変更点があります。

【図解】所得が影響する税金・社会保険・行政サービスの全体マップ

所得が影響する主な制度を一覧で整理すると、以下のようになります。

制度基準となる所得・金額所得が高いと
所得税課税所得(総合課税)税率が上がる(5%〜45%)
住民税(所得割)課税所得(住民税基準)税額が増える(税率10%)
国民健康保険料旧ただし書き所得保険料が増える
後期高齢者医療保険料旧ただし書き所得保険料が増える
介護保険料(65歳以上)合計所得金額保険料段階が上がる
保育料(0〜2歳)住民税の所得割額保育料が上がる
高額療養費標準報酬月額/所得区分自己負担限度額が上がる
児童手当所得制限なし(R6.10〜)影響なし
ふるさと納税の控除上限住民税の所得割額控除上限が上がる

このように、所得は私たちの生活のさまざまな場面で基準となっています。人事・労務担当者として「所得とは何か」を正しく理解しておくことは、単に税金の計算を正しく行うためだけでなく、従業員の生活設計全体をサポートするためにも不可欠な知識です。

令和7年度税制改正のポイント——「103万円の壁」はどう変わったか

令和7年度(2025年度)税制改正により、給与所得控除と基礎控除の引上げが実施されました。この改正は令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税に適用されます(国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」)。いわゆる「103万円の壁」の変動と、人事部門が対応すべき実務上のポイントを解説します。

給与所得控除の最低保障額が55万→65万円に引上げ

前章でも触れたとおり、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。最低保障額が適用される年収の上限も、従来の162万5,000円以下から190万円以下に拡大されています。

この改正の背景には、近年の最低賃金の継続的な引上げがあります。最低賃金が全国平均で年率3%程度上昇する中、控除額が据え置きのままでは、賃金上昇に伴って実質的な税負担が増加してしまう状況にありました。最低保障額の引上げにより、年収190万円以下の給与所得者の税負担が軽減されます。

なお、年収190万円を超える区間の控除額計算式は令和6年分以前と変わりません。このため、年収200万円以上の従業員については、給与所得控除に関する改正の影響はありません。

基礎控除が48万→58万円に引上げ——非課税ラインは123万円/160万円へ

基礎控除額も大幅に改正されました。令和7年分以降の基礎控除は、合計所得金額に応じて以下のように段階的に設定されています。

スクロールできます
合計所得金額令和7・8年分の基礎控除額令和9年分以降の基礎控除額改正前(令和6年分まで)
132万円以下95万円95万円48万円
132万円超〜336万円以下88万円58万円48万円
336万円超〜489万円以下68万円58万円48万円
489万円超〜655万円以下63万円58万円48万円
655万円超〜2,350万円以下58万円58万円48万円
2,350万円超〜2,400万円以下48万円48万円48万円
2,400万円超〜2,450万円以下32万円32万円32万円
2,450万円超〜2,500万円以下16万円16万円16万円
2,500万円超0円0円0円

注目すべきは、合計所得132万円以下(給与収入のみの場合、年収約200万円以下)の場合に基礎控除が95万円と、改正前の約2倍にまで引き上げられている点です。ただし、132万円超〜655万円以下の区間に適用される加算措置(88万円〜63万円の部分)は令和7・8年分の2年間限定の経過措置であり、令和9年分以降は一律58万円に統一される予定です。

この改正により、給与収入のみの場合の所得税の非課税ラインは、以下のように変わりました。

  • 改正前:給与所得控除55万円 + 基礎控除48万円 = 年収103万円
  • 改正後(R7・R8年分):給与所得控除65万円 + 基礎控除95万円 = 年収160万円
  • 改正後(R9年分以降):給与所得控除65万円 + 基礎控除58万円 = 年収123万円

住民税の基礎控除は43万円据置——所得税との非対称性に注意

今回の改正で特に注意すべきは、住民税の基礎控除が43万円のまま据え置かれている点です。所得税の非課税ラインが160万円に上がったとしても、住民税が非課税になる年収ラインはほとんど変わりません。

住民税の非課税判定は自治体ごとに異なりますが、一般的な目安として、給与収入のみの単身者の場合、年収約100万円(均等割の非課税基準)を超えると住民税が発生します。つまり、年収が100万円を超えて160万円以下の場合は、「所得税はゼロだが住民税はかかる」という状態になります。

パート従業員への影響を整理すると以下のとおりです。

年収帯所得税住民税社会保険の扶養
100万円以下非課税非課税(自治体による)扶養内
100万円超〜130万円以下非課税課税(所得割+均等割)扶養内
130万円超〜160万円以下非課税課税扶養外(社保加入の可能性)
160万円超課税課税扶養外

配偶者控除・扶養控除の所得要件はどう変わったか

基礎控除の改正に伴い、配偶者控除や扶養控除の対象となる親族の所得要件も引き上げられました。

項目改正前(R6年分まで)改正後(R7年分以降)
扶養親族の合計所得金額要件48万円以下58万円以下
同一生計配偶者の合計所得金額要件48万円以下58万円以下
勤労学生の合計所得金額要件75万円以下85万円以下

給与収入のみの場合に換算すると、配偶者や扶養親族の年収が123万円以下(給与所得控除65万円を差し引いた合計所得が58万円以下)であれば、扶養控除等の対象になります。改正前は年収103万円以下が基準でしたので、20万円分の余裕が生まれたことになります。

さらに、19歳以上23歳未満の大学生年代の扶養親族については、新たに「特定親族特別控除」が創設されました。これは、特定扶養親族の合計所得金額が58万円を超えても、85万円以下(給与収入150万円相当)までは従来の特定扶養控除と同額の63万円が控除され、さらに123万円以下(給与収入188万円相当)までは段階的に控除が受けられる制度です。

人事部門がすべき対応——パート従業員への案内・システム設定の更新

令和7年度税制改正を受けて、人事部門が実務的に対応すべき主なポイントは次のとおりです。

扶養控除等申告書のチェック基準を更新すること

配偶者や扶養親族の所得要件が48万円から58万円に引き上げられたため、従来は扶養の対象外だった年収103万円超〜123万円以下の配偶者・親族が新たに扶養の対象になる可能性があります。年末調整の際に、該当する従業員に確認を促しましょう。

パートタイム従業員への案内を更新すること

「103万円の壁」という表現は所得税の文脈では「160万円」に変わりましたが、住民税の壁(約100万円)と社会保険の壁(106万円/130万円)は別途存在します。壁の全体像を整理した資料を作成し、パート従業員が就業調整の判断を適切にできるよう情報提供することが重要です。

給与計算ソフトのマスタ更新を確認すること

令和7年12月以降の年末調整から新しい控除額が適用されるため、給与計算ソフトが最新の税制改正に対応しているかを事前に確認しておく必要があります。主要な給与計算ソフト(マネーフォワード、freee、弥生、ジョブカンなど)は税制改正に応じてアップデートを配信しますが、更新の適用漏れがないよう確認しましょう。

基礎控除申告書の新様式に対応すること

令和7年分から、年末調整の申告書が「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に変更されています。従業員への配布・案内の際に、新しい様式を使用しているか確認してください。

【業務フロー別】人事・労務担当者のための収入・所得の使い分けガイド

採用から退職まで、人事・労務の各場面で「収入」と「所得」のどちらの数字を使うべきかは、実務上の判断に迷いやすいポイントです。ここでは、業務フローに沿って使い分けのルールを一覧で整理します。

採用・入社時——オファーレターと前職の源泉徴収票の確認

採用活動において候補者に提示する年収は「収入(額面年収)」です。基本給、各種手当、想定賞与を含めた年間の総支給額を指し、所得税や社会保険料を差し引く前の金額になります。面接時に候補者から「前職の年収」を尋ねる場合も同様に、税引き前の額面年収を確認するのが一般的です。

入社手続きでは、中途入社の従業員から前職の源泉徴収票を受け取ります。これは年末調整で前職分の給与収入と源泉徴収税額を合算するために必要な書類です。源泉徴収票に記載された「支払金額」が前職の収入、「源泉徴収税額」が前職で天引きされた所得税です。前職分の収入を合算して年末調整を行うことで、年間を通じた正しい税額が計算されます。

前職の源泉徴収票を受け取れない場合(前職の会社が倒産した場合など)は、年末調整での合算ができないため、従業員本人が確定申告で精算する必要があります。この場合はその旨を従業員に案内しましょう。

毎月の給与計算——支給額・課税対象額・非課税手当の区分

毎月の給与計算では、「支給額の総額(収入に相当)」と「課税対象額」を区別する必要があります。給与計算ソフト上で特に注意すべきは、非課税手当の取扱いです。

通勤手当のうち月15万円以下の部分は所得税の計算上は非課税ですが、社会保険料の計算では報酬に含まれます。また、出張手当(日当)、宿直手当、結婚祝金(社会通念上相当と認められる金額)なども、一定の条件のもとで非課税扱いとなります。

給与計算ソフトでは、各手当の課税・非課税区分を正しく設定しておくことが重要です。設定を誤ると、源泉徴収税額が過大または過小になり、年末調整で大きな追徴・還付が発生する原因となります。

賞与計算時——前月給与との関係と源泉徴収税額の算出

賞与に対する源泉徴収税額は、前月の給与(社会保険料等控除後の金額)を基準に「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って算出します。ここで使うのは「収入」ベースの金額であり、「所得」は直接使いません。

計算手順は次のとおりです。

  1. 前月の給与から社会保険料を差し引いた金額を算出する
  2. 扶養親族等の数と上記の金額を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめ、税率を求める
  3. 賞与額から社会保険料を差し引いた金額に、上記の税率を掛けて源泉徴収税額を算出する

なお、前月に給与の支払いがない場合や、賞与の額が前月給与の10倍を超える場合は、別の計算方法(月額表を使った計算)を適用する必要があります。

年末調整——各種申告書で記入する金額の使い分け

年末調整は、「収入」と「所得」を最も頻繁に使い分ける業務です。各種申告書で記入すべき金額のルールを整理します。

「給与所得者の基礎控除申告書」欄

  • 「収入金額」の欄:その年の給与収入の見積額(額面年収)を記入
  • 「所得金額」の欄:収入金額から給与所得控除額を差し引いた金額を記入
  • 「基礎控除の額」の欄:所得金額に応じた基礎控除額を記入

「配偶者控除等申告書」欄

  • 配偶者の「収入金額」と「所得金額」をそれぞれ記入
  • 配偶者が給与収入のみの場合:収入金額を記入し、給与所得控除を差し引いた金額を所得金額の欄に記入
  • 配偶者が年金収入のみの場合:年金収入を記入し、公的年金等控除を差し引いた金額を所得金額の欄に記入

「扶養控除等(異動)申告書」

  • 扶養親族の「所得の見積額」は、収入ではなく所得を記入する
  • 給与収入123万円以下の配偶者・親族であれば、所得は58万円以下になるため扶養の対象

従業員が最も間違えやすいのは、配偶者や扶養親族の「収入」と「所得」を取り違えて記入するケースです。配偶者のパート収入が120万円の場合、「収入金額」欄には120万円と記入し、「所得金額」欄には120万円−65万円=55万円と記入するのが正しい書き方です。

退職手続き——退職所得の受給に関する申告書と源泉徴収票の発行

従業員が退職する際に人事部門が行う主な手続きと、使用する金額は次のとおりです。

退職所得の受給に関する申告書の受領:退職金を支給する場合、退職日までに「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらいます。この申告書には勤続年数を記入する欄があり、退職所得控除額の計算に使われます。

退職金の源泉徴収:申告書の提出がある場合は、退職所得控除後の金額に1/2を乗じた「退職所得」に対して所得税を源泉徴収します。申告書の提出がない場合は、退職金の全額に対して20.42%が源泉徴収されるため、従業員に大きな不利益が生じます。必ず事前に案内しましょう。

給与所得の源泉徴収票の発行:退職日から1か月以内に、その年の1月1日から退職日までの給与に対する源泉徴収票を発行します。「支払金額」には退職日までの給与・賞与の合計額(収入)を記載します。

退職所得の源泉徴収票の発行:退職金を支給した場合は、給与の源泉徴収票とは別に「退職所得の源泉徴収票」を発行します。

住民税の特別徴収——切替届出と異動届出の提出タイミング

住民税の特別徴収(給与天引き)に関する手続きでは、「所得」を直接記入する場面はほとんどなく、市区町村から通知された税額に基づいて天引きするのが基本です。

ただし、以下の場面で手続きが発生します。

入社時:前職で特別徴収されていた従業員が入社した場合、「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を前の勤務先が提出している場合があります。新しい勤務先に切り替える場合は、「特別徴収への切替届出書」を市区町村に提出します。

退職時:6月1日〜12月31日の間に退職した場合は、残りの住民税を最後の給与から一括徴収するか、普通徴収に切り替えるかを従業員本人に確認します。1月1日〜5月31日の間に退職した場合は、原則として残額を一括徴収します。

住民税は前年の所得に基づいて計算されるため、退職後に所得が大幅に減少しても、翌年5月までの住民税は前年の所得水準で課税され続けます。退職する従業員には、この仕組みを事前に説明しておくと、退職後の家計計画に役立ちます。

従業員からよくある質問と回答例——人事担当者のためのQ&A集

年末調整の時期になると、従業員からの問い合わせが急増します。ここでは、実際に寄せられることの多い質問と、人事担当者としての模範回答例をまとめました。そのままコピーして社内FAQに転用することもできますので、ぜひご活用ください。

「年末調整の書類で『収入金額』と『所得金額』、どちらを書けばいいですか?」

回答例:記入する欄によって異なります。「給与所得者の基礎控除申告書」の場合、まず上段の「収入金額」欄に今年の年収の見込み額(税引き前の額面年収)を記入してください。

次に、裏面の速算表に当てはめて給与所得控除額を算出し、収入金額からこれを差し引いた金額を「所得金額」欄に記入します。つまり、「収入金額」は額面年収、「所得金額」は控除後の金額です。給与明細の総支給額を12か月分合算した金額が「収入金額」のおおよその目安になります。

「配偶者の年収を聞かれましたが、手取りを書いてもいいですか?」

回答例:手取りではなく、税金や社会保険料が引かれる前の「額面年収」を記入してください。配偶者のパート先の給与明細で「総支給額」を確認し、1年分を合算した金額が記入すべき数字です。

配偶者がまだ年の途中であれば、現在の月収をもとに12月末までの見込み年収を計算して記入してください。手取り額を記入してしまうと、実際の収入よりも低い金額で判定されてしまい、後日の年末調整のやり直しが必要になる場合があります。

「ふるさと納税の控除上限を知りたいのですが、どの数字を見ればいいですか?」

回答例:ふるさと納税の控除上限額を正確に知るには、住民税の「所得割額」が基準になります。昨年の源泉徴収票をお持ちであれば、「支払金額」と「給与所得控除後の給与等の金額」「所得控除の額の合計額」の数字をふるさと納税のシミュレーションサイトに入力すると、おおよその上限額が分かります。

なお、年末調整で使用する所得控除(扶養控除や生命保険料控除など)の変動により金額が変わるため、あくまで目安としてお使いください。正確な上限額は、翌年の住民税が確定してから初めて正確に分かるものです。

「転職先から前職の年収を聞かれました。どの金額を伝えるべきですか?」

回答例:通常、転職先が「年収」として聞いている金額は、税金や社会保険料を差し引く前の「額面年収」のことです。前職の源泉徴収票に記載された「支払金額」の数字をお伝えいただくのが最も正確です。

年の途中で退職された場合は、その年の1月から退職日までの金額が記載されているため、前年の源泉徴収票を基に「前年の年収は○○万円でした」とお伝えするほうが、フルイヤーの年収として正確です。

「手取り」や「所得」を聞かれているケースはほぼありませんが、もし「所得」を聞かれた場合は、源泉徴収票の「給与所得控除後の給与等の金額」をお伝えください。

「副業の収入がありますが、会社にはどう申告すればいいですか?」

回答例:年末調整は本業の給与に対して行う手続きですので、副業の収入は年末調整の対象外です。副業で得た所得(給与所得・退職所得を除く)が年間20万円を超える場合は、ご自身で確定申告を行ってください。

確定申告の際に、副業分の住民税の徴収方法を「自分で納付(普通徴収)」に選択すれば、副業分の住民税が本業の給与から天引きされることを避けられる場合があります(ただし、対応は自治体によります)。就業規則で副業に関するルールが定められている場合がありますので、まずは就業規則をご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q1:収入と所得の違いを一言でいうと?

収入とは、会社から支払われる給与や賞与の税引き前の総額のことです。所得とは、収入から必要経費(会社員の場合は給与所得控除)を差し引いた金額です。たとえば年収500万円の会社員の場合、収入は500万円ですが、給与所得控除144万円を差し引いた356万円が所得になります。

Q2:給与所得控除とは何ですか?

給与所得控除とは、会社員の「みなし必要経費」として、給与収入から自動的に差し引くことが認められている控除のことです。個人事業主が確定申告で経費を計上するのと同じ趣旨の制度であり、年収に応じて65万円〜195万円の控除が受けられます。令和7年度税制改正により、最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。

Q3:年収500万円の場合、所得はいくらになりますか?

年収500万円の場合、令和7年分の給与所得控除額は「500万円×20%+44万円=144万円」です。したがって、給与所得は500万円−144万円=356万円となります。ここからさらに基礎控除や社会保険料控除などの所得控除を差し引いた金額が「課税所得」であり、この課税所得に税率を掛けて所得税が決まります。

Q4:所得と手取りの違いは何ですか?

所得は「収入から必要経費(給与所得控除など)を差し引いた金額」であり、税金の計算基礎になる金額です。手取りは「収入から所得税・住民税・社会保険料をすべて差し引いた、実際に銀行口座に振り込まれる金額」です。年収500万円の場合、所得は約356万円ですが、手取りは約388万円と、所得と手取りは異なる金額になります。

Q5:令和7年度の税制改正で何が変わりましたか?

主な変更点は3つです。第一に、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。第二に、基礎控除が合計所得金額に応じて最大95万円(合計所得132万円以下の場合)に引き上げられました。第三に、19歳以上23歳未満の大学生年代を対象とした「特定親族特別控除」が新設されました。これらの改正は令和7年12月の年末調整から適用されています。

Q6:パート・アルバイトの「103万円の壁」は今いくらですか?

所得税に限れば、令和7・8年分は年収160万円まで非課税です(給与所得控除65万円+基礎控除95万円)。ただし、住民税の基礎控除は43万円のまま据え置かれているため、年収約100万円を超えると住民税が発生する可能性があります。また、社会保険の扶養に入る基準は年収130万円(一定規模以上の企業では106万円)のままです。所得税・住民税・社会保険でそれぞれ「壁」の金額が異なる点にご注意ください。

Q7:所得が高いと保育料も上がるのですか?

はい。0〜2歳児クラスの保育料は、保護者の住民税の所得割額に基づいて決定されます。所得が高いほど住民税の所得割額が大きくなるため、保育料も高く設定されます。3〜5歳児クラスについては2019年10月から無償化されているため、所得による影響はありません。保育料の具体的な金額は自治体ごとに異なりますので、お住まいの市区町村の保育料表を確認してください。

Q8:源泉徴収票のどこを見れば所得がわかりますか?

源泉徴収票の「給与所得控除後の給与等の金額」の欄に記載されている数字が、給与所得です。「支払金額」は給与収入(額面年収)、「給与所得控除後の給与等の金額」は給与所得を表しています。なお、「所得控除の額の合計額」欄には、基礎控除や社会保険料控除などの合計額が記載されており、これを給与所得から差し引いた金額が課税所得の基礎になります。

今すぐできる3つのアクション

本記事の内容を踏まえて、人事・労務担当者が今すぐ実行できるアクションを3つ提案します。

1. 源泉徴収票の読み方チートシートを作成する

「支払金額=収入」「給与所得控除後の金額=所得」「所得控除の額の合計額=個人の事情に応じた控除」「源泉徴収税額=年間の所得税」という4つの対応関係をA4一枚にまとめ、従業員が年末調整の書類を記入する際の参考資料として配布しましょう。

2. 「年収の壁」早見表を更新する

所得税の壁(160万円)、住民税の壁(約100万円)、社会保険の壁(106万円/130万円)を一覧にした早見表を作成し、パートタイム従業員に配布しましょう。「103万円の壁がなくなった」という誤解を防ぎ、正確な情報に基づいた就業調整を支援できます。

3. 年末調整の申告書記入例を準備する

令和7年分の新様式に対応した記入例を作成しましょう。特に、基礎控除申告書の「収入金額」と「所得金額」の書き分け、配偶者の収入・所得の記入方法について具体的な数字入りの記入例を用意すると、従業員からの問い合わせを大幅に削減できます。

まとめ——収入と所得の違いを正しく理解して実務に活かそう

本記事では、「所得と収入の違い」を軸に、人事・労務担当者が知っておくべき知識を体系的に解説してきました。ここで、主要なポイントを振り返ります。

  • 収入と所得の定義:収入は税引き前の総額、所得は収入から必要経費(会社員は給与所得控除)を差し引いた金額です。さらに所得から税金・社会保険料を差し引いた金額が手取りであり、この3つはすべて異なる金額です。
  • 所得の10種類:所得税法は所得を10種類に分類しています。人事実務で特に重要なのは、給与所得、退職所得、事業所得(副業関連)の3つです。退職所得は分離課税であり、退職所得控除と1/2課税の優遇措置が設けられています。
  • 給与所得控除と所得控除の違い:給与所得控除は「収入→所得」の段階で使う控除、所得控除は「所得→課税所得」の段階で使う控除です。名前は似ていますが、適用タイミングと性質がまったく異なります。
  • 所得が基準になる制度の広がり:所得は所得税だけでなく、住民税、国民健康保険料、保育料、高額療養費の自己負担限度額など、多くの制度の算定基礎になっています。特に住民税の基礎控除が43万円に据え置かれている点は、従業員への案内で注意が必要です。
  • 令和7年度税制改正の要点:給与所得控除の最低保障額が65万円に、基礎控除が最大95万円に引き上げられ、所得税の非課税ラインは年収160万円に拡大しました。ただし住民税の壁は変わらず、社会保険の壁(106万円/130万円)も別途存在します。

収入と所得の違いを正しく理解することは、単に税金の計算を間違えないためだけでなく、従業員の生活設計を支援し、組織全体のコンプライアンスを維持するための基礎となります。

本記事が、日々の業務のハンドブックとしてお役に立てば幸いです。

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この記事を書いた人

労務問題の課題解決メディア『ROUMU2.0』の企画編集部。企業法務弁護士ナビやBackOfficeDBなど、労務問題の解決手段を提供している。

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