36協定の特別条項とは、繁忙期や突発的なトラブルなど「臨時的な特別の事情」がある場合に限り、通常の残業上限(月45時間・年360時間)を超えて時間外労働を命じることを認める労使協定の条項です。2019年4月の働き方改革関連法施行により、特別条項にも罰則付きの上限規制が設けられ、月100時間未満・年720時間以内などの絶対的上限を超えると刑事罰の対象となります。
令和6年度の厚生労働省の監督指導では、調査対象26,512事業場のうち42.4%で違法な時間外労働が発覚しており、特別条項の正しい理解と運用は企業のリスク管理上、避けて通れない課題です。
[参照元]監督指導を行った事業場の42.2%で違法な時間外労働|JILPT
本記事では、特別条項の基本ルールから届出手続き、発動時の実務フロー、業種別の記載例、最新の法改正動向まで、人事・労務担当者が「これだけ読めば対応できる」レベルで網羅的に解説します。
- 特別条項付き36協定を締結すれば、臨時的な事情がある月に限り月45時間・年360時間の上限を超えて残業を命じられる
- ただし月100時間未満・年720時間以内・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6回までの4要件を1つでも超えると罰則の対象
- 届出だけでなく「発動手続き」を適正に行わなければ特別条項が無効とされるリスクがあり、運用管理まで含めた対策が不可欠
36協定の基本と特別条項の位置づけ
36協定(サブロク協定)は、企業が従業員に残業や休日出勤を命じるために不可欠な労使協定です。ここでは、36協定の基本的な仕組みから特別条項の位置づけまでを順に解説します。
特別条項がなぜ必要なのかを理解するために、まず36協定そのものの全体像を押さえておきましょう。
そもそも36協定(サブロク協定)とは
36協定とは、労働基準法第36条に基づいて労使間で締結される「時間外・休日労働に関する協定」のことです。条文の番号にちなんで「サブロク協定」と呼ばれています。
労働基準法では、労働時間の上限を1日8時間・週40時間(法定労働時間)と定めており、使用者はこれを超えて労働者を働かせることが原則として禁じられています。また、毎週少なくとも1日(または4週間で4日)以上の休日(法定休日)を与えることも義務づけられています。
つまり、法定労働時間を超える残業や法定休日の出勤を命じたい場合には、事前に労使間で36協定を締結し、管轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。届出をせずに残業をさせると、たとえ残業代を支払っていても労働基準法違反となります。
ただし、36協定を締結しても残業時間は無制限になるわけではありません。原則として月45時間・年360時間(1年単位の変形労働時間制を採用している場合は月42時間・年320時間)が上限として定められています。この上限を「限度時間」と呼びます。
一般条項と特別条項の違い
36協定には、大きく分けて「一般条項(通常の36協定)」と「特別条項」の2つがあります。両者の違いを整理すると以下のとおりです。
一般条項(通常の36協定)は、月45時間・年360時間の限度時間の範囲内で時間外労働を行わせるための協定です。ほとんどの企業が最初に締結するのがこの一般条項であり、届出には厚生労働省の「様式第9号」を使用します。
一方、特別条項付き36協定は、臨時的な特別の事情がある場合に限り、一般条項の限度時間を超えて時間外労働を命じることを認める協定です。届出には一般条項とは異なる「様式第9号の2」を使用し、限度時間を超えて労働させる具体的な事由や、労働者の健康確保措置などを追加で記載する必要があります。
この両者の関係をひとことで表すなら、「一般条項が日常のルール、特別条項は非常時のルール」です。特別条項はあくまで例外的な措置であり、恒常的に長時間労働を前提とした運用は認められていません。
2019年の法改正で何が変わったか——罰則付き上限規制が設けられた経緯
2019年4月(中小企業は2020年4月)に施行された「働き方改革関連法」は、36協定の特別条項のあり方を根本から変えました。
改正前の制度では、時間外労働の限度時間(月45時間・年360時間)は厚生労働大臣の「告示」で定められているにすぎず、法的な強制力がありませんでした。特別条項を付けさえすれば、実質的に上限なく時間外労働をさせることが可能な状態だったのです。
こうした状況が過労死や過労自殺などの深刻な社会問題を引き起こしたことを受け、働き方改革関連法では以下の3つの大きな変更が行われました。
- 第一に、限度時間(月45時間・年360時間)が告示から法律上の規定に格上げされました。これにより、限度時間の超過は法律違反として罰則の対象となります。
- 第二に、特別条項付き36協定を締結した場合であっても、超えてはならない絶対的な上限が法律で定められました。具体的には、年720時間以内・月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間以内・月45時間超は年6回までの4要件です。これらの要件は次のセクション(H2-2)で詳しく解説します。
- 第三に、上限規制に違反した場合の罰則として「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が明文化されました。さらに、違反企業は厚生労働省の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」に企業名が掲載されるため、採用活動や取引関係にも悪影響を及ぼします。
この法改正により、特別条項は「付ければ何でもできる」ものから「厳格な要件のもとで例外的に認められる措置」へと位置づけが大きく変わりました。
特別条項が必要になるケースとは
自社に特別条項が必要かどうかを判断するには、過去1年間の時間外労働の実績を確認するのが最も確実です。
以下の3つの問いに1つでも「はい」と答えるなら、特別条項付き36協定の締結を検討すべきです。
- 月45時間を超える残業が発生した月が過去1年間に1回以上あるか? → 繁忙期や決算期に45時間を超える月がある場合、一般条項だけでは対応できません
- 年間の時間外労働の合計が360時間を超える従業員がいるか? → 年間で見ると月平均30時間の残業でも年360時間に到達するため、意外と多くの企業が該当します
- 今後、突発的な業務増加(大型受注、システム障害、リコール対応等)が起こりうるか? → 現時点で限度時間内であっても、リスクに備えて事前に締結しておくことが推奨されます
なお、特別条項は「必要になったら締結する」ものではなく、事前に締結・届出しておくものです。限度時間を超える残業が発生してから慌てて届出をしても、届出前の超過分は違法な時間外労働として扱われますので注意してください。
特別条項の4つの上限ルール
特別条項付き36協定を締結しても、時間外労働を無制限に行わせられるわけではありません。2019年の法改正で設けられた以下の4つの上限は、すべて罰則付きの絶対的上限です。
1つでも超えると労働基準法違反となり、使用者に刑事罰が科される可能性があります。ここでは各上限の内容と、実務で見落としやすいポイントを解説します。
月100時間未満(休日労働を含む)
1ヶ月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満でなければなりません。ここで注意すべきは「未満」という表現です。つまり、ちょうど100時間は違法となります。99時間59分までが合法ラインです。
また、この上限には法定休日労働の時間も含まれる点が重要です。たとえば、ある月の時間外労働が80時間、法定休日労働が20時間だった場合、合計100時間となり上限を超えてしまいます。
知っておきたい割増賃金率
特別条項の発動を検討する際には、コスト面も考慮に入れる必要があります。時間外労働が月60時間を超えた部分には50%以上の割増賃金を支払う義務があります(2023年4月から中小企業にも適用)。
月45時間以内の残業では25%の割増率で済みますが、特別条項を発動して60時間を超えると割増率が倍増するため、人件費への影響は小さくありません。特別条項の発動は「法的に認められるかどうか」だけでなく、「コストに見合うかどうか」の観点からも慎重に判断すべきです。
[参照元]月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省
年720時間以内(休日労働を含まない)
1年間の時間外労働の合計が720時間以内でなければなりません。月の上限とは異なり、年間の上限には法定休日労働の時間は含まれません。
この違いは実務上混乱を招きやすいポイントです。月の上限(100時間未満)は「時間外労働+休日労働」で計算しますが、年の上限(720時間)は「時間外労働のみ」で計算します。
そのため、法定休日労働が多い企業では、年720時間の上限には余裕があるように見えても、月100時間や複数月平均80時間の上限に先に抵触する可能性があります。
2〜6ヶ月の平均80時間以内
時間外労働と休日労働の合計について、2ヶ月・3ヶ月・4ヶ月・5ヶ月・6ヶ月のいずれの期間で平均しても80時間以内でなければなりません。
この要件は、ある特定の月だけ極端に残業が多い「一点集中型」の長時間労働を防ぐために設けられています。たとえば、ある月に95時間の時間外・休日労働をした場合、翌月以降の残業を大幅に抑えなければ、2ヶ月平均80時間の上限を超えてしまいます。
実務では、当月の残業時間だけでなく、過去2〜5ヶ月間の残業時間の推移を常に把握しておく必要があります。月次で勤怠を締めた後に初めて超過に気づくのでは手遅れですので、リアルタイムの労働時間モニタリングが不可欠です。
なお、この80時間という数値は、脳・心臓疾患の労災認定基準における「過労死ライン」と一致しています。厚生労働省は、1週間あたり40時間を超える労働時間が月平均80時間を超えると、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いとしています。
月45時間超は年6回まで
月45時間(変形労働時間制の場合は月42時間)の限度時間を超えられるのは、1年間で6回(6ヶ月)までです。つまり、1年のうち半分以上の月で限度時間を超えることはできません。
この「年6回」という回数制限は、特別条項があくまで「臨時的な措置」であることを担保するための規定です。年の後半になって6回を使い切ってしまうと、残りの月は月45時間以内に収めなければなりません。
そのため、年間の業務カレンダーを見据えて、どの月に特別条項を使う可能性があるかを事前に計画しておくことが重要です。
たとえば、決算期(3月)、期末商戦(12月)、新年度立ち上げ(4月)など、あらかじめ繁忙が想定される月を把握し、発動回数の配分を戦略的に管理しましょう。
法定休日労働のカウント方法に要注意
前述のとおり、4つの上限ルールのうち、法定休日労働が含まれるものと含まれないものがあります。実務でミスが起きやすいポイントですので、以下の表で整理します。
| 上限ルール | 時間外労働 | 法定休日労働 | 判定基準 |
|---|---|---|---|
| 月100時間未満 | 含む | 含む | 合計で100時間未満 |
| 年720時間以内 | 含む | 含まない | 時間外労働のみで720時間以内 |
| 2〜6ヶ月平均80時間以内 | 含む | 含む | 合計の平均で80時間以内 |
| 月45時間超は年6回まで | 含む | 含まない | 時間外労働のみで45時間超の月をカウント |
この表からわかるように、月単位の上限(100時間・複数月平均80時間)では法定休日労働が含まれるのに対し、年単位の上限(720時間・年6回)では含まれません。
法定休日労働を多く行っている企業では、年720時間には余裕があっても月100時間や複数月平均80時間に先に抵触するケースが発生します。
勤怠管理システムで「時間外労働」と「法定休日労働」を明確に区分して集計できる体制を整えておくことが不可欠です。
特別条項で認められる「臨時的な特別の事情」と業種別の記載例
特別条項付き36協定を締結する際には、限度時間を超えて労働させる必要がある「臨時的な特別の事情」を具体的に定める必要があります。この事由の書き方次第で、特別条項の有効性そのものが左右されます。
ここでは、認められる事由と認められない事由の境界線、そして業種別の実践的な記載例を詳しく解説します。
「臨時的な特別の事情」として認められる事由・認められない事由
労働基準法第36条第5項では、特別条項を発動できる場面を「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」と規定しています。
つまり、特別条項の事由として認められるのは、「臨時的」かつ「具体的」な業務上の事情に限られます。
- 予算・決算業務の集中(年度末の決算作業など、時期が特定できるもの)
- 予期せぬ納期変更・納期のひっ迫(取引先の事情による急な前倒し)
- 大規模なクレーム・不具合への緊急対応(製品リコール、品質トラブル等)
- 重大な機械トラブル・システム障害の復旧
- ボーナス商戦・年末商戦などの季節的繁忙期
- 法改正や制度変更への対応業務
- 「業務の都合上必要なとき」(具体性がなく、恒常的な適用を招く)
- 「業務上やむを得ないとき」(同上)
- 「業務が繁忙なとき」(具体的な業務内容や期間の特定がない)
このように、事由はできる限り具体的に記載することが求められます。厚生労働省の指針でも、限度時間を超える必要がある場合は「できる限り具体的に定めなければならない」とされており、漠然とした記載は労働基準監督署から指導を受ける原因となります。
[参照元]時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省
業種別の具体的な記載例(IT・製造業・小売サービス・建設・運送・医療)
特別条項の事由は業種や職種によって大きく異なります。以下に、主要な業種別の記載例を一覧で示します。自社の状況に近い事由を参考に、できる限り具体的な表現にカスタマイズして使用してください。
IT・ソフトウェア開発業
- 顧客からの突発的な仕様変更対応により、納品スケジュールが逼迫した場合
- 本番環境における重大なシステム障害が発生し、緊急の復旧作業が必要となった場合
- 大型プロジェクトのリリース直前において、テスト工程でクリティカルな不具合が発見された場合
- セキュリティインシデント(不正アクセス、情報漏洩等)への緊急対応が必要となった場合
製造業
- 製品の重大な品質不良が発見され、リコール対応・原因究明が必要となった場合
- 大口受注の集中により、通常の生産計画では対応しきれない場合
- 予期せぬ主要設備の故障・トラブルにより、復旧および代替生産が必要となった場合
- 原材料の供給遅延に伴い、納期を遵守するための生産スケジュールの見直しが必要となった場合
小売・サービス業
- 年末商戦(11月〜12月)における需要増大に対応するため、店舗運営体制の増強が必要となった場合
- インバウンド需要の急増に伴い、通常の人員配置では対応しきれない場合
- 大規模な顧客クレームが発生し、全社的な対応が必要となった場合
- 新店舗オープンに伴う準備作業および立ち上げ期間における業務集中
建設業
- 工期の逼迫(発注者の事情による工期変更等)に対応するため、臨時的に作業量が増加した場合
- 台風・地震等の自然災害に伴う緊急の復旧工事が必要となった場合
- 近隣住民への配慮等により作業可能時間が制限され、工程の調整が必要となった場合
運送業
- 季節的な物流量の増加(お中元・お歳暮時期等)により、通常の配送体制では対応しきれない場合
- 災害発生に伴う緊急の救援物資輸送が必要となった場合
- 取引先の急な出荷量変更に伴い、配送スケジュールの大幅な見直しが必要となった場合
医療機関
- 感染症の大規模な流行に伴い、通常の診療体制では対応しきれない場合
- 大規模災害による傷病者の大量受け入れが必要となった場合
適用猶予業種の特別ルール(建設業・自動車運転業務・医師)
2024年4月から、これまで上限規制の適用が猶予されていた建設業・自動車運転業務・医師にも、上限規制が適用されています。ただし、業種によって一部の上限が異なる特別ルールが設けられています。
建設業は、2024年4月以降は一般業種と同じ上限規制が全面適用されます。ただし、災害時における復旧・復興事業については、月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件が適用されない特例があります。
自動車運転業務は、年間の時間外労働の上限が一般業種の720時間ではなく960時間となっています。また、月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件、および月45時間超年6回までの回数制限は適用されません。ただし、将来的に一般則の水準に近づけていくことが政府の方針として示されています。
医師は、医療機関の指定区分(A水準・B水準・C水準)に応じて年間の上限が異なります。A水準(一般的な医療機関)では年960時間、B水準(地域医療確保のために必要な医療機関)やC水準(研修医等)では年1,860時間が上限となっています。
これらの猶予業種についても、労働者の健康確保措置の実施は例外なく求められます。特に自動車運転業務や医師については、業務の特性上、過労による事故リスクが高いため、健康管理に一層の注意が必要です。
研究開発業務は上限規制の適用除外——ただし医師面接指導は必須
新商品・新技術の研究開発業務については、業務の性質上、時間配分を一律に規制することが困難であるとして、上限規制の適用が除外されています。つまり、月100時間未満・年720時間以内などの上限は適用されません。
ただし、適用除外だからといって無制限に働かせてよいわけではありません。研究開発業務に従事する労働者が1週間あたり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた場合、事業者は本人の申出の有無にかかわらず、医師による面接指導を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の2)。面接指導を怠った場合は50万円以下の罰金が科されます。
IT企業やメーカーの研究開発部門では、「上限規制が適用されないから36協定の管理は不要」と誤解しているケースが散見されます。
しかし実際には、研究開発業務であっても36協定の締結・届出自体は必要であり、医師面接指導の義務も課されています。適用除外は「上限時間の規制が免除される」という意味にすぎない点を正確に理解しておきましょう。
【2024年問題のその後】猶予終了後の実態と最新データ
2024年4月に建設業・自動車運転業務・医師への上限規制の適用猶予が終了してから約2年が経過しました。
猶予終了「前」の制度解説は数多くありますが、猶予終了「後」に実際に何が起きているのかを追跡した記事はほとんどありません。ここでは、最新の監督指導データをもとに、猶予終了後の実態を明らかにします。
建設業・運送業・医師への上限規制適用の経緯
上限規制の適用時期を時系列で整理すると以下のとおりです。
- 2019年4月:大企業に上限規制を適用開始
- 2020年4月:中小企業にも上限規制を適用開始
- 2024年4月:建設業、自動車運転業務、医師、鹿児島県および沖縄県の砂糖製造業への適用猶予が終了
5年間の猶予期間は、これらの業種が働き方改革に対応するための準備期間として設けられたものです。しかし、慢性的な人手不足や長時間労働が常態化していたこれらの業種にとって、5年間は決して十分な準備期間ではありませんでした。
特に物流業界では、トラックドライバーの拘束時間規制の強化と相まって「2024年問題」と呼ばれる物流危機が懸念されてきました。建設業界でも、工期の長さや天候依存の作業特性から、長時間労働の削減には構造的な課題が山積しています。
令和6年度の監督指導結果に見る実態(違反率42.4%)
猶予終了後の初年度を含む令和6年度(2024年4月〜2025年3月)の監督指導結果は、長時間労働問題の深刻さを浮き彫りにしています。
厚生労働省が2025年7月に公表した結果によれば、長時間労働が疑われる26,512事業場に対して監督指導が実施され、そのうち11,230事業場(42.4%)で違法な時間外労働が確認されました。
[参照元]長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
違法な時間外労働があった事業場のうち、時間外・休日労働が最長の労働者の実績を確認すると、以下のような実態が明らかになっています。
- 月80時間超:5,464事業場(48.7%)
- 月100時間超:3,191事業場(28.4%)
- 月150時間超:653事業場(5.8%)
- 月200時間超:124事業場(1.1%)
月200時間超の時間外・休日労働は、前年度(令和5年度)の35事業場から124事業場へと約3.5倍に急増しています。これは、猶予業種への上限規制適用が始まったことで、これまで「合法」だった長時間労働が「違法」として計上されるようになった影響が大きいと考えられます。
また、監督指導を受けた事業場全体では、21,495事業場(81.1%)で何らかの労働基準関係法令違反が認められました。違法な時間外労働以外にも、賃金不払残業が2,118事業場(8.0%)、過重労働による健康障害防止措置の未実施が5,691事業場(21.5%)と、複合的な問題が明らかになっています。
運送業の改善基準告示違反と賃金不払い172億円の衝撃
2024年問題の影響が最も顕著に表れているのが運送業です。
厚生労働省が公表した賃金不払に関する監督指導結果(2024年1月〜12月)によると、賃金不払いの総件数は22,354件、対象労働者185,197人、金額172億1,113万円にのぼります。このうち運輸交通業が金額ベースで約41%(70.2億円)を占めており、突出した状況です。
運輸交通業における賃金不払いの背景には、ドライバーの労働時間管理の不備が大きく関係しています。2024年4月以降、自動車運転業務にも上限規制(年960時間)が適用されたことで、これまで「慣行」として黙認されてきた長時間労働や不正確な労働時間記録が表面化しました。
また、自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導では、5割を超える事業場で「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)の違反が認められています。改善基準告示は、拘束時間・休息期間・連続運転時間などを規制するドライバー固有のルールであり、36協定の上限規制と併せて遵守する必要があります。
これらのデータが示しているのは、猶予終了後の移行期において、特に運送業では法令遵守体制の整備が追いついていないという現実です。自社で運送業務を抱える企業や、物流を外部委託している発注者側の企業も、サプライチェーン全体での労働時間管理に目を向ける必要があるでしょう。
特別条項付き36協定の締結手続き【5ステップで解説】
特別条項付き36協定の締結は、正しい手順を踏まなければ効力が認められません。ここでは、過半数代表者の選出から届出完了までの一連のプロセスを、5つのステップに分けて解説します。中小企業で専任の人事担当者がいない場合でも対応できるよう、各ステップの実務ポイントを具体的に示しています。
ステップ① 過半数代表者の適正な選出方法
36協定を締結するためには、まず労働者側の当事者を確定させる必要があります。事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合が締結当事者となりますが、そのような労働組合がない場合は「過半数代表者」を選出しなければなりません。
過半数代表者の選出にあたっては、以下の要件を満たす必要があります。
第一に、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないことが必要です。部長や工場長など、経営と一体的な立場にある者は過半数代表者にはなれません。
第二に、36協定を締結するための過半数代表者を選出することを明らかにしたうえで、投票・挙手・回覧など民主的な手続きで選出されなければなりません。使用者が指名したり、親睦会の代表者を自動的に過半数代表者とすることは認められていません。
過半数代表者の選出手続きの重要性を示す代表的な事例として、東洋印刷事件があります。この事例では、使用者が過半数代表者を不正に指名していたことが発覚し、36協定そのものが無効と判断されました。36協定が無効となった場合、その期間中のすべての時間外労働が違法となり、割増賃金の遡及支払いや刑事罰のリスクが生じます。「誰かに頼んでやってもらう」という形式的な対応は、企業にとって重大なリスクとなりうるのです。
過半数代表者の選出は、以下の手順で行うことを推奨します。
- 選出目的の周知:「36協定の締結のために過半数代表者を選出する」旨を全従業員に通知する
- 立候補の受付:立候補者を募集し、一定期間を設ける
- 投票の実施:無記名投票または挙手などの民主的方法で投票を行う
- 結果の記録・保管:選出の方法、日時、結果を記録として残す
ステップ② 協定内容の策定と労使協議
過半数代表者が選出されたら、特別条項付き36協定の具体的な内容について労使で協議を行います。
協議すべき主な内容は以下のとおりです。
- 時間外労働を行う必要のある具体的事由:前述の「臨時的な特別の事情」をできる限り具体的に定める
- 時間外労働の上限時間数:月の上限(100時間未満の範囲で設定)、年の上限(720時間以内の範囲で設定)
- 限度時間を超えて労働させる回数:年6回以内で設定
- 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率:25%を超える具体的な割増率を設定
- 限度時間を超えて労働させる場合の手続き:「労働者代表への事前通知」「労使協議」などの手続き方法
- 健康及び福祉を確保するための措置:10項目の中から選択
労使協議では、使用者側の希望だけを一方的に押し通すのではなく、実際に長時間労働に従事する労働者側の意見にも耳を傾け、双方が合意できる内容を見つけることが大切です。
ステップ③ 届出様式(様式第9号の2)の書き方
特別条項付き36協定の届出には、厚生労働省が定める「様式第9号の2」を使用します。通常の36協定(様式第9号)とは異なる書式ですので、間違えないよう注意してください。
様式第9号の2は表裏2ページ構成になっており、表面には一般条項(限度時間内の時間外労働)の内容を、裏面には特別条項(限度時間を超える時間外労働)の内容を記載します。
特別条項の記載にあたって特に注意すべきポイントは以下の3点です。
- 臨時的に限度時間を超えて労働させる場合の具体的事由:できる限り具体的に記載する(前述のH2-3参照)。「業務の都合」等の漠然とした記載は返戻(差し戻し)の原因となります。
- 1ヶ月の時間外労働+休日労働の合計時間数:100時間未満の範囲で具体的な数字を記載します。「100時間」と記載すると「未満」の要件を満たさないため返戻されます。
- 健康及び福祉を確保するための措置:様式裏面に記載された10項目から該当するものを選択し、具体的な内容を記入します。最低1項目の選択が必要ですが、複数選択が望ましいとされています。
なお、2021年4月以降の届出では、過半数代表者の署名・押印が不要となっています。ただし、36協定届と36協定書を兼ねて作成する場合は、引き続き労使双方の署名または記名押印が必要です。
届出様式はあくまで「届」であり、労使間の「協定書」とは別の書類である点に留意してください。届出様式は厚生労働省のウェブサイトからWord・PDF形式でダウンロードできます。
[参照元]時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|厚生労働省
ステップ④ 労働基準監督署への届出(窓口・郵送・電子申請)
協定の内容が確定し、届出様式への記入が完了したら、管轄の労働基準監督署に届け出ます。届出の方法は3つあります。
窓口提出:管轄の労働基準監督署の窓口に直接持参する方法です。不備があればその場で指摘を受けられるメリットがありますが、営業時間内に足を運ぶ必要があります。
郵送提出:管轄の労働基準監督署宛に郵送する方法です。控えの返送を希望する場合は、返信用封筒(切手貼付)を同封してください。
電子申請(e-Gov):e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用してオンラインで届出を行う方法です。24時間いつでも申請可能で、窓口に出向く手間が省けます。ただし、電子署名が必要な場合と不要な場合がありますので、事前に確認してください。
なお、36協定届は事業場ごとに届出が必要です。本社と支店でそれぞれ時間外労働が発生する場合は、本社の管轄労基署と支店の管轄労基署にそれぞれ届け出る必要があります。複数の事業場で同じ内容の36協定を締結している場合は「本社一括届出」も可能ですが、過半数代表者が異なる場合は一括届出ができない点に注意してください。
ステップ⑤ 届出後の周知義務と保管
36協定の届出が受理されたら、その内容を労働者に周知する義務があります(労働基準法第106条)。周知の方法としては、事業場の見やすい場所への掲示、書面の交付、社内イントラネットへの掲載など、労働者が容易に確認できる方法であれば問題ありません。
また、36協定に関する書類は3年間の保存義務があります(労働基準法施行規則第17条)。協定届の控え、協定書、過半数代表者の選出記録、後述する特別条項の発動記録などを一括して管理できるファイルを作成しておくとよいでしょう。
有効期間と更新スケジュールの管理——届出漏れを防ぐ年間カレンダー
36協定には有効期間を定める必要があり、一般的には1年間とするのが通例です。厚生労働省も、36協定の有効期間は最も短い場合でも1年間とすることが望ましいとしています。
ここで実務上最も注意すべきなのが、有効期間の切替タイミングでの届出漏れです。36協定の効力は届出によって発生するため、前の協定の有効期間が満了してから新しい協定を届け出るまでの空白期間中は、一切の時間外労働・休日労働が違法となります。
届出漏れを防ぐために、以下のスケジュール管理を推奨します。
- 有効期間満了の3ヶ月前:新しい36協定の内容について労使協議を開始
- 有効期間満了の2ヶ月前:過半数代表者の選出(任期が切れている場合)
- 有効期間満了の1ヶ月前:届出様式の作成完了・届出の実施
- 有効期間満了日:新しい36協定の効力発生
多くの企業が36協定の有効期間を4月1日〜翌年3月31日の年度単位で設定しています。この場合、1月〜2月に労使協議を行い、3月上旬には届出を完了させるスケジュールが理想的です。
人事・労務担当者は、年間の業務カレンダーに36協定の更新スケジュールを組み込み、更新作業の着手時期にリマインダーを設定しておくことを強く推奨します。
特別条項の「発動」実務マニュアル
36協定の締結・届出が完了しても、それだけでは特別条項を「使える」状態にはなりません。実際に限度時間を超えて労働させる際には、協定で定めた「発動手続き」を実施する必要があります。この手続きを怠ると、特別条項が無効とされ、限度時間超過分がすべて違法な時間外労働として扱われるリスクがあります。
発動とは何か?——届出だけでは足りない理由
特別条項の「発動」とは、限度時間(月45時間・年360時間)を超えて時間外労働を行わせる必要が生じた際に、協定で定めた所定の手続きを経て、特別条項の適用を開始することを指します。
特別条項付き36協定の届出様式(様式第9号の2)には、「限度時間を超えて労働させる場合における手続」という記入欄があり、ここに記載した手続きを実際に行わなければ、法的に有効な発動とはなりません。
多くの企業がこの欄に「労働者代表への事前通知」または「労使協議」と記載していますが、実態として手続きを行っていないケースが少なくありません。形式的に記載しただけで実際の手続きが伴わなければ、労働基準監督署の調査時に「手続き不備」を指摘される原因となります。
経営層への説明・社内稟議のポイント
特別条項の発動は、現場の管理職だけで判断すべきものではありません。特に初めて発動する場合や、発動回数が年6回の上限に近づいている場合には、経営層への報告と承認を得るプロセスを組み込むことを推奨します。経営層への説明にあたっては、以下の要素を盛り込むと理解を得やすくなります。
- なぜ限度時間を超える必要があるのか(臨時的な特別の事情の具体的な説明)
- 対象となる部署・人数・想定される残業時間
- 発動期間の見通し(いつまでに通常体制に戻せるか)
- 割増賃金率50%(月60時間超)の適用に伴うコスト増の試算
- 健康確保措置の実施計画
発動時の労働者代表への事前通知と手続きフロー
特別条項の発動手続きは、36協定に「労使協議」と記載している場合と「事前通知」と記載している場合で異なります。
「労使協議」としている場合は、使用者と過半数代表者との間で協議を行い、双方の合意を得る必要があります。この場合、協議の内容と結果を書面で記録しておくことが重要です。
「事前通知」としている場合は、使用者から過半数代表者へ一方的に通知すれば手続き要件を満たします。ただし、口頭での通知は記録が残らないため、書面またはメールで行うことを強く推奨します。
通知書または協議書に記載すべき事項の例は以下のとおりです。
- 発動日(限度時間を超える月の開始日)
- 発動の理由(臨時的な特別の事情の具体的内容)
- 対象となる業務および対象労働者の範囲
- 想定される時間外労働時間数
- 実施する健康確保措置の内容
- 発動の終了見込み時期
この手続きは、毎月、特別条項の発動が必要となるたびに実施する必要があります。一度手続きを行えば有効期間中ずっと有効、というわけではありません。
発動記録の作成・保管方法
特別条項を発動した場合、以下の記録を作成し保管しておく必要があります。
発動手続きの記録:前述の通知書・協議書の写し。発動のたびに作成・保管します。
健康確保措置の実施記録:特別条項で定めた健康確保措置(医師面接指導の実施、勤務間インターバルの確保等)を実際に実施した記録です。厚生労働省は、特別条項を発動した際の健康確保措置の実施状況について記録を残し保存することを求めています。
対象労働者の労働時間の記録:発動期間中の対象労働者の実際の時間外労働時間・休日労働時間の記録です。4つの上限ルールの遵守状況を確認できるよう、日次・月次での集計が必要です。
これらの記録は、労働基準監督署の調査時に提示を求められるものです。調査は予告なく行われることもあるため、常に最新の記録が閲覧可能な状態にしておくことが重要です。
手続き不備で特別条項が無効に——書類送検事例から学ぶ教訓
特別条項の発動手続きを適切に行わなかった場合のリスクを、実際の事例をもとに確認しましょう。
滋賀県の電子部品製造請負業の事例では、36協定の特別条項に「労働者代表への事前通知」を発動手続きとして記載していたにもかかわらず、実際には通知を行っていませんでした。このため、特別条項の発動が無効と判断され、限度時間超過分がすべて違法な時間外労働として扱われ、書類送検に至りました。
この事例が示す教訓は明確です。36協定の様式に「手続き」を記載するだけでは不十分であり、実際に手続きを行い、その記録を残すことが不可欠です。とりわけ、労働基準監督署の調査では、発動手続きの実施記録の有無が重点的に確認されます。
「届出はしたが発動手続きはしていない」という企業は決して少なくありません。しかし、この状態は法的には36協定に定めた手続きに違反している状態であり、特別条項が無効とされるリスクを常に抱えていることを認識してください。
健康確保措置の選定と運用ガイド
特別条項付き36協定を締結する際には、限度時間を超えて労働させる労働者に対する「健康及び福祉を確保するための措置」を定めることが義務づけられています。しかし実際には、どの措置を選べばよいのか、選んだ措置をどう運用すればよいのかがわからないという声が多く聞かれます。ここでは、10項目の措置の具体的な運用方法と記入例を解説します。
特別条項に必須の「健康及び福祉を確保するための措置」全10項目
様式第9号の2の裏面には、以下の10項目が健康確保措置の選択肢として記載されています。このうち少なくとも1つを選択する必要がありますが、複数選択が望ましいとされています。
- 医師による面接指導の実施
- 深夜業(22時〜5時)の回数を1ヶ月あたり一定回数以内とすること
- 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること(勤務間インターバル)
- 代償休日または特別な休暇を付与すること
- 健康診断を実施すること
- 連続休暇を取得させること
- 心とからだの相談窓口を設置すること
- 配置転換を行うこと
- 産業医等による助言・指導や保健指導を行うこと
- その他
措置ごとの具体的な運用内容と記入例
届出様式の「具体的内容」欄に何を書けばよいかは、多くの担当者が悩むポイントです。以下に各措置の具体的な記入例と運用上のポイントを示します。
① 医師による面接指導の実施
記入例:「月80時間を超える時間外・休日労働を行った労働者に対し、申出の有無にかかわらず、産業医による面接指導を翌月中に実施する」
運用ポイント:法定では月80時間超の労働者に対する面接指導は本人の申出が必要ですが、特別条項の健康確保措置として定める場合は、申出がなくても実施する設計にするとより実効性が高まります。
② 深夜業の回数制限
記入例:「特別条項を発動した月の深夜業は1ヶ月あたり6回以内とする」
運用ポイント:深夜業の回数制限は、シフト制を採用している事業場で特に有効な措置です。
③ 勤務間インターバルの確保
記入例:「特別条項を発動した月は、終業から翌日の始業までに少なくとも11時間の休息時間を確保する」
運用ポイント:勤務間インターバルは、後述する法改正動向で義務化が検討されている措置です。現時点で自主的に導入しておくことで、法改正への先行対応にもなります。
④ 代償休日または特別な休暇の付与
記入例:「月45時間を超えて時間外労働を行った労働者に対し、翌月以降に代償休日を1日付与する」
運用ポイント:代償休日は、繁忙期に集中した疲労を回復するための実効的な措置です。ただし、休日を付与しても取得されなければ意味がないため、取得を促す仕組みも併せて整備してください。
⑤〜⑩の措置についても、同様に「誰に・いつ・何を実施するか」を具体的に記入してください。「必要に応じて実施する」のような曖昧な記載は実効性に欠けるため避けるべきです。
形骸化を防ぐためのチェックポイント
健康確保措置の最大の課題は形骸化です。届出時に選択したものの、実際の運用では一切実施されていないというケースは珍しくありません。形骸化を防ぐために、以下のチェックポイントを定期的に確認してください。
チェック1:措置の実施記録があるか
特別条項を発動した月ごとに、どの措置をどの労働者に対して実施したかの記録が残っていますか?記録がなければ「実施していない」と同義です。
チェック2:措置の内容が実態に合っているか
選択した措置が自社の業務実態に合っていますか?たとえば、交替制勤務のない事業場で「深夜業の回数制限」を選択しても、実効性に乏しい場合があります。
チェック3:対象者全員に措置が行き届いているか
特別条項の発動対象となった労働者全員に措置が実施されていますか?一部の労働者が漏れていないか、確認してください。
企業の労務担当者が従業員の長時間労働・隠れ残業を防止するための施策7選
特別条項付き36協定を適切に運用するためには、そもそも不必要な長時間労働を発生させない仕組みづくりが不可欠です。特に近年は、テレワークの普及に伴い従来の目視確認が困難になったことで、「隠れ残業」のリスクが高まっています。ここでは、企業が実践すべき7つの防止施策を具体的に解説します。
施策①:勤怠管理システムによる客観的な労働時間の把握(PCログ・入退室記録との突合)
長時間労働を防止するための大前提は、労働時間を正確に把握することです。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者が自ら現認するか、タイムカード・ICカード・PCの使用時間記録等の客観的な方法で労働時間を記録することを求めています。
令和6年度の監督指導では、4,016事業場(15.1%)で労働時間の把握が不適正であるとして指導を受けています。
[参照元]長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
効果的な運用のポイントは、勤怠管理システムの打刻データとPCのログオン・ログオフ記録、入退室記録などを突合し、乖離がないかを定期的にチェックする仕組みを構築することです。たとえば、PCのログオフ時刻が退勤打刻より30分以上遅い場合にアラートを発する設定にしておけば、隠れ残業の早期発見につながります。
施策②:残業の事前申請・承認制度の導入と形骸化防止のポイント
残業を「やむを得ず発生するもの」から「事前に承認を得て行うもの」に転換する仕組みが、事前申請・承認制度です。
ただし、この制度は形骸化しやすいことが知られています。よくある問題は、「とりあえず申請して自動承認される」「事後申請が常態化する」「管理職が内容を確認せずに承認する」といったものです。
形骸化を防ぐためには、以下のルールを徹底してください。
- 申請時に残業の理由と予定終了時刻を具体的に記入させる
- 承認者(直属の上司)が理由の妥当性を確認してから承認する
- 事後申請は原則として認めず、やむを得ない場合のみ翌営業日の午前中までに申請させる
- 月単位で「申請なし残業」のデータを集計し、未申請残業が多い部署には是正を求める
施策③:36協定の残時間をリアルタイムで可視化するアラート運用
36協定の上限管理で最も有効な施策の一つが、リアルタイムアラートの導入です。
多くの勤怠管理システムには、36協定の月間上限・年間上限に対する残り時間をリアルタイムで表示し、一定の閾値に達した時点でアラートを発する機能が備わっています。たとえば、月の時間外労働が30時間に達した時点で「黄色アラート」、40時間に達した時点で「赤アラート」を管理職と人事部門に同時通知する設定が考えられます。
特別条項に関しては、月45時間超の回数(年6回制限)と、複数月平均80時間の推移にも注目してアラートを設定してください。これらは月次の締め処理後に初めて確認するのでは手遅れになるリスクがあります。
施策④:勤務間インターバル制度の自主導入(法改正を先取り)
勤務間インターバル制度とは、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までに一定時間以上の休息時間を確保する制度です。現行法では努力義務にとどまりますが、後述するとおり法改正での義務化が検討されています。
EU諸国では11時間のインターバルが義務化されており、日本の労働基準関係法制研究会でも11時間を基本とする提言がなされています。特別条項を発動するような繁忙期こそ、労働者の睡眠時間と心身の回復を保証するためのインターバル確保が重要です。
導入にあたっては、まず11時間の確保を目標とし、最低でも9時間は確保するルールを設けることを推奨します。インターバルが確保できない場合は翌日の始業時刻を繰り下げる運用とし、勤怠管理システムでインターバル不足を自動検知する仕組みを構築してください。
施策⑤:テレワーク・持ち帰り残業における「隠れ残業」の検知と対策
テレワークの普及により、自宅での「隠れ残業」が深刻な問題となっています。オフィスであれば管理職が目視で退勤状況を確認できますが、テレワークではそれが困難です。
隠れ残業を検知するためには、PCのログ管理が最も有効です。テレワーク用PCにログ収集ツールを導入し、勤怠打刻とPCの稼働時間を突合するのが基本的な対策です。加えて、業務チャットツール(Slackなど)の深夜帯の発言ログや、クラウドストレージのファイル更新時刻なども、隠れ残業の兆候を把握する手がかりとなります。
なお、テレワークであっても36協定の上限規制はまったく同じように適用されます。「在宅だから労働時間の管理は緩くてよい」という認識は法的に誤りですので、テレワーク就業規則にも36協定の遵守を明記しておきましょう。
施策⑥:管理職向けラインケア研修——部下の長時間労働を見逃さない仕組みづくり
長時間労働の防止は、制度やシステムだけでは完結しません。現場の管理職が部下の労働時間に関心を持ち、異変に気づける能力を身につけることが不可欠です。
ラインケア研修では、以下の内容を扱うことを推奨します。
- 36協定の上限ルールと管理職個人の法的責任(書類送検は管理職個人が対象となりうること)
- 過労死ラインの数値(月80時間・100時間)の意味と、部下の労働時間モニタリングの方法
- 長時間労働の兆候(遅刻の増加、ミスの増加、表情の変化等)の見分け方
- 業務量の調整・再配分の具体的な手法
研修は年1回ではなく、特別条項の発動時期に合わせて適宜実施するのが効果的です。
施策⑦:ノー残業デー・PC強制シャットダウンなど物理的な退勤促進策の効果と限界
毎週水曜日をノー残業デーに設定する、20時にオフィスのPCを強制シャットダウンするといった物理的な退勤促進策は、多くの企業で導入されています。
これらの施策は、長時間労働の「見える化」と組織的な退勤圧力を生むという点で一定の効果があります。しかし、いくつかの限界も認識しておく必要があります。
第一に、ノー残業デーの翌日に残業が集中する「残業の曜日シフト」が起きやすく、月間の総労働時間は変わらない場合があります。第二に、PC強制シャットダウン後に自宅で持ち帰り残業をする「隠れ残業」の温床になりかねません。
したがって、物理的な退勤促進策は単独で導入するのではなく、業務量の適正化や前述のテレワーク対策と組み合わせて総合的に運用することが重要です。
違反するとどうなる?罰則・書類送検・損害賠償リスク
特別条項の上限ルールに違反した場合、企業にはどのような法的リスクが生じるのでしょうか。罰則は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」と一見軽く見えますが、実際の影響はそれだけにとどまりません。ここでは、罰則の詳細、実際の書類送検事例、そして過労死等に至った場合の損害賠償リスクまでを体系的に解説します。
労働基準法違反の罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)
36協定の上限規制に違反した場合の罰則は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金です(労働基準法第119条)。この罰則は、以下のいずれのケースにも適用されます。
- 36協定を締結せずに時間外労働・休日労働をさせた場合
- 36協定の限度時間を超える時間外労働をさせた場合(特別条項なしで月45時間超など)
- 特別条項の上限(月100時間未満、年720時間以内等)を超えた場合
- 特別条項の発動要件を満たさずに限度時間を超えた場合
罰則の対象となるのは使用者であり、法人の場合は代表者だけでなく、違反行為を直接指示・容認した管理職個人も処罰の対象となりえます(労働基準法第121条、両罰規定)。
また、刑事罰に加えて、厚生労働省が運営する「労働基準関係法令違反に係る公表事案」に企業名が掲載されます。この公表は、求職者やクライアントなど誰でも閲覧可能であり、企業の採用活動や取引関係に長期的な悪影響を及ぼします。
実際に書類送検された5つの事例
書類送検に至った実際の事例を確認することで、「どのような行為が違反となるのか」をより具体的に理解できます。
事例1:ABCマート(靴小売大手)
残業代は適切に支払っていたにもかかわらず、36協定の上限時間を超える時間外労働をさせていたとして書類送検されました。この事例は、「残業代さえ払えば法律違反にならない」という誤解を打破する代表的なケースです。
事例2:広島県の機械器具製造業
特別条項の年6回の回数制限を超えて限度時間超過を行わせていたとして書類送検されました。年の後半に入ってから6回を超過していることに気づいたものの、業務を理由にそのまま超過を続けた結果、摘発に至りました。
事例3:滋賀県の電子部品製造請負業
36協定に「労働者代表への事前通知」と記載していたにもかかわらず、実際には事前通知を行わずに限度時間を超えた労働をさせていたため、特別条項の発動が無効と判断され書類送検されました。手続き不備が原因で書類送検に至った代表事例です。
事例4:電子機器メーカー
工場で月106時間の時間外労働をさせていたとして、工場長が労働基準法違反の容疑で書類送検されました。この事例は、法人ではなく管理職個人が被疑者となったケースとして注目されます。
事例5:東洋印刷
過半数代表者の選出手続きに不備(使用者による不正な指名)があったため、36協定そのものが無効と判断されました。36協定が無効となった結果、その期間中のすべての時間外労働が違法となり、重大なコンプライアンス問題に発展しました。
過労死・過労自殺と企業の損害賠償責任
36協定の上限規制に違反した結果、労働者が過労死や過労自殺に至った場合、企業は刑事罰に加えて民事上の損害賠償責任を負います。
労災認定基準では、1週間あたり40時間を超える労働時間が月45時間を超えて長くなるほど業務との関連性が強まり、月100時間を超える場合、または2〜6ヶ月平均で80時間を超える場合は、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いとされています。
過労死・過労自殺に至った場合の損害賠償額は、逸失利益(将来得られたであろう収入)、慰謝料、葬儀費用などを合算すると数千万円から1億円を超えるケースもあります。企業にとっては、罰金30万円とは桁違いのリスクです。
さらに、社会的な信用の失墜、従業員のモラルダウン、離職率の上昇など、金銭では計算できない間接的な損害も甚大です。特別条項の上限規制は、こうした深刻なリスクを予防するための「安全ネット」として機能しているのです。
電子申請の手順と2025年からの新しい届出方法
36協定の届出は、従来の窓口・郵送に加えて電子申請でも行えます。特に2025年3月からは新たな電子申請方法が追加され、複数事業場を持つ企業の届出負担が大幅に軽減されました。ここでは、電子申請の基本手順と最新の変更点を解説します。
e-Govによる電子申請の基本手順
e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用した36協定届の電子申請は、以下の手順で行います。
まず、e-Govの「手続検索」で「36協定」を検索し、該当する手続き(時間外労働・休日労働に関する協定届)を選択します。次に、画面上で必要事項を入力し、申請データを作成します。特別条項付きの場合は「様式第9号の2」に相当する画面で入力を行います。
入力が完了したら、申請データを送信します。申請後は、e-Govのマイページで処理状況を確認できます。受理されれば手続き完了となり、受付印が押された電子公文書がダウンロードできます。
なお、2021年4月以降の届出では、過半数代表者の署名・押印が不要となったため、電子申請での提出がよりスムーズになっています。また、届出者本人の電子署名も不要(署名省略可能)な手続きとして取り扱われており、特別なICカードや電子証明書がなくても申請できます。
2025年3月開始「確かめよう労働条件」ポータルでの一括届出
2025年3月31日から、厚生労働省の「確かめよう労働条件」ポータルサイトを通じた新たな電子申請方法が開始されました。この方法では、本社と各事業場で36協定の内容が異なる場合でも、本社一括届出が可能となっています。
[参照元]2025年4月、就業規則や36協定の本社一括届出方法が拡充|SATO PORTAL
従来のe-Govでは、本社一括届出は「全事業場で同一内容の36協定を締結している場合」に限られていました。しかし事業場ごとに業務内容が異なれば、36協定の内容(特別条項の具体的事由や上限時間など)も異なるのが実態です。新方式ではこの制限が撤廃され、事業場ごとに異なる内容の36協定をまとめて一括で届け出ることが可能になりました。
全国に支店や営業所を持つ企業にとっては、各事業場の管轄労基署に個別に届出を行う手間が大幅に削減されるため、積極的な活用を検討してください。
電子申請でよくある返戻理由と対処法
電子申請では、内容に不備がある場合に「返戻」(差し戻し)となることがあります。よくある返戻理由と対処法を把握しておけば、手戻りを防げます。
返戻理由1:上限時間の記載ミス
「1ヶ月の時間外労働+休日労働の合計」欄に「100時間」と記載するケースです。法律上の要件は「100時間未満」ですので、「99時間」以下の数値を記載する必要があります。
返戻理由2:具体的事由の記載が不十分
「業務の都合」「業務上やむを得ない場合」等の漠然とした記載は返戻の対象となります。具体的な業務内容や発生状況を特定できる記載に修正してください。
返戻理由3:労働者代表の要件不備
管理監督者が過半数代表者となっている、または選出方法が「使用者の指名」となっているなど、要件を満たさない場合に返戻されます。
最新データで見る長時間労働の現状
ここでは、特別条項に関連する最新の統計データを3つの切り口から整理します。自社の労働時間管理を見直す際の参考指標としてご活用ください。
特別条項付き36協定の締結割合——10年で大企業58.6%→87.9%に拡大
特別条項付き36協定を締結している企業の割合は、この10年間で大きく増加しています。
平成25年度の「労働時間等総合実態調査」では、特別条項付き36協定を締結している事業場の割合は大企業で58.6%、中小企業では11.3%でした。
一方、令和4年の「就労条件総合調査」(厚生労働省)によると、1,000人以上の大企業では87.9%が特別条項を締結しており、全体でも49.9%と約半数に達しています。
大企業では10年間で約30ポイント増加しており、2019年の法改正を機に「特別条項なしでは事業を回せない」という認識が広がったことがうかがえます。一方、中小企業での締結率は依然として低く、法改正の趣旨が十分に浸透していない可能性があります。中小企業こそ、36協定の基本ルールから改めて確認する必要があるといえるでしょう。
監督指導を受けた事業場の81.1%で法令違反
前述のとおり、令和6年度に長時間労働が疑われる事業場として監督指導を受けた26,512事業場のうち、81.1%にあたる21,495事業場で何らかの労働基準関係法令違反が認められました。
[参照元]長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
主な違反内容の内訳は以下のとおりです。
- 違法な時間外労働:11,230事業場(42.4%)
- 過重労働による健康障害防止措置の未実施:5,691事業場(21.5%)
- 賃金不払残業:2,118事業場(8.0%)
注目すべきは、時間外労働の違反だけでなく、健康障害防止措置の未実施が2割超に達している点です。これは、36協定で定めた健康確保措置が実際には運用されていない(形骸化している)企業が多いことを示唆しています。
また、労働時間の把握が不適正であるとして指導を受けた事業場は4,016事業場(15.1%)にのぼります。労働時間を正確に把握できなければ、36協定の上限管理もできません。勤怠管理の適正化は、すべての労務コンプライアンスの土台です。
精神障害の労災認定1,055件——過労死白書が示す課題
令和7年版の「過労死等防止対策白書」(2025年10月公表)では、精神障害の労災認定件数が1,055件と、過去最多を記録しました。長時間労働だけでなく、業務上のストレス全般が労災認定の対象となるため、単純に36協定の問題だけとはいえませんが、長時間労働が精神障害の主要な原因の一つであることは明らかです。
また、同白書では週60時間以上の雇用者の割合が8.0%(2024年)であり、政府の大綱目標である5%には依然として到達していないことが報告されています。業種別では運輸業・郵便業(18.5%)、宿泊業・飲食サービス業(16.0%)、教育・学習支援業(15.9%)の順で高く、これらの業種では特別条項の運用にとりわけ慎重な対応が求められます。
2025年以降の法改正動向と企業が今すべき準備
36協定と時間外労働をめぐる法制度は、今後さらに大きく変わる可能性があります。ここでは、労働基準関係法制研究会が示した改正の方向性と、法案提出をめぐる最新の経緯を解説し、企業が今から取り組むべき準備を整理します。
労働基準関係法制研究会の7つの提言(勤務間インターバル義務化ほか)
2025年1月に公表された「労働基準関係法制研究会」の報告書は、約40年ぶりの労働基準法大改正に向けた方向性を示した重要文書です。同報告書に含まれる主な提言は以下のとおりです。
- 勤務間インターバル制度の義務化:現行の努力義務から義務規定へ格上げし、原則11時間のインターバル確保を求める
- 14日以上の連続勤務の禁止:現行法では4週4休の変形休日制のもとで最大48日間の連続勤務が理論上可能だが、これを制限する
- 法定休日の特定義務化:就業規則等で法定休日を具体的に特定することを義務化する
- テレワーク時の労働時間管理の明確化:テレワーク特有の課題に対応した規定の整備
- 管理監督者に対する健康確保措置の強化
- 副業・兼業時の労働時間通算ルールの見直し
- 労働基準法の適用範囲の再検討(フリーランス等への保護拡大の検討)
これらの提言が法制化された場合、36協定の運用にも大きな影響を与えます。特に勤務間インターバルの義務化は、特別条項を発動した月の勤務シフト設計に直接関わる変更です。
法案提出見送りの経緯と今後のスケジュール
研究会報告書の内容は当初、2025年中の法案提出が見込まれていました。しかし、2025年12月の時点で法案の国会提出が見送りとなっています。
見送りの背景には、政権が打ち出した規制緩和方針と、研究会が提言した規制強化路線との方向性の不一致があったとされています。特に勤務間インターバルの義務化や連続勤務の禁止については、経済界からの慎重意見も根強く、調整に時間を要しています。
2026年4月時点で法案は未提出であり、施行時期は不透明な状況です。ただし、研究会の報告書自体が撤回されたわけではなく、法制化に向けた議論は継続しています。数年以内に何らかの法改正が行われる可能性は十分にあると考えておくべきでしょう。
法改正を見据えて企業が今から取り組むべきこと
法案の提出時期は不透明であっても、企業が今から準備できることは多くあります。
勤務間インターバルの自主導入:義務化を待たずに、まずは努力義務として11時間のインターバル確保をルール化してください。自主導入の実績があれば、義務化された際の移行コストが最小限で済みます。
連続勤務日数の管理強化:現行法でも過度な連続勤務は安全配慮義務の観点から問題があります。連続勤務が7日を超える場合はアラートを出す仕組みを導入してください。
法定休日の明確化:就業規則で法定休日が特定されていない企業は、今のうちに整備しておきましょう。法定休日と法定外休日の区分が曖昧なままでは、36協定の上限管理にも支障をきたします。
副業・兼業に関するルールの整備:従業員の副業・兼業を認めている場合は、労働時間の通算方法について就業規則やガイドラインで明確化しておくことを推奨します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 特別条項なしの36協定でも残業は可能ですか?
はい、可能です。通常の36協定(一般条項)を締結・届出すれば、月45時間・年360時間の範囲内で時間外労働を命じることができます。この範囲を超える残業が発生しない企業であれば、特別条項は不要です。ただし、突発的な繁忙期に備えてあらかじめ特別条項付きで締結しておく企業も多くあります。
Q2. 特別条項を使える回数の「年6回」はどのように数えますか?
月45時間(変形労働時間制の場合は月42時間)の限度時間を超えた月を1回としてカウントし、1年間(36協定の有効期間)で6回を超えてはなりません。法定休日労働の時間は月45時間のカウントには含まれないため、「時間外労働のみ」で45時間を超えた月が対象です。なお、45時間ちょうどは限度時間「以内」ですので、カウントには含まれません。
Q3. 管理監督者にも特別条項は適用されますか?
労働基準法第41条第2号に規定する「管理監督者」には、労働時間・休日に関する規定の適用が除外されるため、36協定の上限規制は適用されません。ただし、深夜労働の割増賃金は適用されます。また、管理監督者であっても、使用者には安全配慮義務があるため、健康を損なうような長時間労働を放置することは許されません。さらに、名ばかり管理職(管理監督者の要件を満たさない者)については上限規制が通常どおり適用されます。
Q4. テレワーク・在宅勤務と36協定の適用ルール(事業場外みなし・深夜労働の扱い)
テレワーク・在宅勤務であっても、36協定の上限規制はオフィス勤務と同じように適用されます。テレワークだからといって上限が緩和されることはありません。
なお、テレワーク時に「事業場外みなし労働時間制」を適用できるかどうかについては、厚生労働省のガイドラインで「情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」「随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」の2要件を満たす場合に限り適用可能としています。一般的なテレワーク(チャットやメールで随時指示を受ける形態)では、この要件を満たさないケースが多いため、事業場外みなし労働時間制の安易な適用は避けてください。
また、テレワーク中の深夜労働(22時〜5時)には通常の25%以上の割増賃金が必要です。深夜のメール送信やシステム作業が常態化している場合は、勤怠管理と合わせて対策が必要です。
Q5. 副業・兼業をしている従業員の労働時間は通算されますか?
はい、労働基準法上、異なる事業場で働く場合の労働時間は通算されます。したがって、副業先での労働時間を合算した結果、法定労働時間や36協定の上限を超える場合には、割増賃金の支払いや36協定の上限管理に注意が必要です。
ただし、実務上は副業先の労働時間をリアルタイムで把握することが困難なケースが多いため、厚生労働省は「管理モデル」と呼ばれる簡便な労働時間管理方法を示しています。副業・兼業を認めている企業は、従業員から副業先での労働時間の自己申告を求める仕組みを整備してください。
Q6. 36協定の届出を忘れた場合はどうなりますか?
36協定の届出がないまま時間外労働をさせた場合、そのすべてが違法な時間外労働となります。「協定は締結していたが届出を忘れていた」場合であっても、届出は効力発生の要件であるため、届出前の時間外労働は違法です。速やかに届出を行い、届出受理後から適法な時間外労働を開始してください。
Q7. 有効期間の更新手続きはいつまでに行えばよいですか?
36協定の有効期間が満了する前に、新しい36協定を締結・届出する必要があります。有効期間満了から新しい協定の届出までに空白期間が生じると、その間の時間外労働はすべて違法となります。前述のスケジュール管理(H2-5参照)を参考に、遅くとも有効期間満了の1ヶ月前までには届出を完了させることを推奨します。
Q8. パート・アルバイトも36協定の対象ですか?
はい、パート・アルバイトを含むすべての労働者が36協定の対象です。雇用形態を問わず、法定労働時間を超えて働かせる場合は36協定の締結・届出が必要であり、上限規制も同様に適用されます。また、過半数代表者の選出にあたっては、パート・アルバイトも含めた全労働者の過半数の支持を得る必要があります。
Q9. 特別条項付き36協定の作成を社労士に依頼する場合の費用相場と依頼範囲は?
社会保険労務士に36協定の作成・届出を依頼する場合の費用相場は、一般的に1事業場あたり2万円〜5万円程度が目安です。ただし、特別条項付きの場合は一般条項のみの場合より費用が高くなる傾向があります。また、複数事業場の届出を一括で依頼する場合は割引が適用されることもあります。
依頼できる範囲としては、過半数代表者の選出に関するアドバイス、協定内容の策定支援、届出様式の作成、労働基準監督署への届出代行、電子申請代行などが一般的です。特別条項の具体的事由の書き方や健康確保措置の選定についてもアドバイスを受けられますので、初めて特別条項を締結する企業は専門家への相談を検討してください。
なお、費用は地域や社労士事務所によって異なります。複数の事務所に見積もりを依頼し、対応範囲と費用のバランスを比較することを推奨します。
まとめ:特別条項の正しい運用が企業を守る
本記事では、36協定の特別条項について、基本ルールから実務的な運用方法、最新データ、法改正動向まで網羅的に解説しました。最後に、特に重要なポイントを整理します。
第一に、特別条項は「届出」だけでなく「発動手続き」まで適切に行う必要があります。 多くの企業が36協定の届出は行っているものの、実際の発動手続き(労働者代表への事前通知・協議)を実施していません。手続き不備は特別条項の無効リスクにつながります。
第二に、4つの上限ルールの管理には、リアルタイムの労働時間モニタリングが不可欠です。 月100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間以内、年6回の回数制限——これらを月末の締め処理後に初めて確認するのでは遅すぎます。日次で残業時間を追跡し、閾値に近づいたらアラートが出る仕組みを整備してください。
第三に、法改正の動向を注視し、先行して対応を進めておくことが重要です。 勤務間インターバルの義務化や連続勤務の禁止など、将来の法改正に向けた準備を今から始めることで、施行時の混乱を最小限に抑えられます。
特別条項の適切な運用は、企業を法的リスクから守るだけでなく、従業員の健康と生産性を維持し、持続可能な経営基盤を築くための投資でもあります。本記事の内容を参考に、自社の36協定の運用状況を今一度見直してみてください。
本記事で提供したテンプレート・チェックリスト一覧:
- 特別条項が必要かどうかの判定フロー(H2-1)
- 法定休日労働のカウント方法早見表(H2-2)
- 業種別の具体的事由記載例集(H2-3)
- 過半数代表者の選出手順チェックリスト(H2-5)
- 有効期間の更新スケジュール管理カレンダー(H2-5)
- 特別条項の発動手続きフロー(H2-6)
- 健康確保措置の運用チェックリスト(H2-7)
- 長時間労働・隠れ残業防止施策7選(H2-8)

